未来の焙煎事情とは

あらかじめお断りしておきますが、今回のエントリはタワゴトのソシリを免れまいと思われます。それでもよろしければ読んでみてください。
ローストというのは、生の豆を飲むための豆にするため熱をかけることである。
ということを踏まえて、ロースティング事情を考えてみた。
今、スペシャルティコーヒーが日本でも市民権を得ようとしている。スターバックス(世界最大、日本では2番目に店舗数が多いコーヒーチェーンである)に行けば、国名だけでなく産地まで表記してあるコーヒー豆を販売していることに気づく。
伊達や酔狂で表記しているわけではない。消費者のニーズがそうさせているのである。それはつまり、消費者が「ただのグアテマラではなく、アンティグア産のグアテマラ」にプレミアムを支払うつもりがあるということだ。
さらに街のコーヒー専門店に行けば、もっとたくさんの情報が付記されたコーヒー豆を見ることができる。グアテマラ・アンティグア・サンタカリーナ農園などと書いてあるのがあるかも知れない。それは、アンティグアといういくつかの山を抱えるエリアの中にある、サンタカリーナ農園の豆であるということだ。そしてこれも同じように、消費者は「サンタカリーナ農園のものならば」喜んで余分にプレミアムを支払う準備があるということだ。
これらの豆はスペシャルティコーヒーと呼ばれる。そしてこれらスペシャルティコーヒーの味を判別するカッピングには、浅煎りの豆で抽出した液体を用いる。
カッピングではその豆が持つ素晴らしい酸を感じることができる。ありとあらゆるフルーツ、発酵など付加された風味も含め、これほど複雑で素晴らしい酸味を持っているのかと驚かされる。それは、イタリアンやフレンチローストまで豆を焼かないから保持し得る風味である。
そこで、少々危なっかしい表現だが、世界中でスペシャルティコーヒーは浅煎りで酸を感じるという公式を作り上げてしまっているきらいがある。もちろん、焦げる直前までローストしては酸味が減ってしまう(あるいはすっかり無くなってしまう)のは間違いない。できるだけ浅煎りで酸の損失が無い状態でと願うのは、素晴らしい酸を持つスペシャルティコーヒーを扱う人間なら当然のことだろう。
さて、話は変わって、ロースター界のロールスロイスと呼ばれる、プロバットである。
プロバットは素晴らしい(らしい。僕は使ったこと無いし、完全に伝聞です)。
焙煎機とはなんだろうかというと、冒頭の通り、生豆に熱をかける機械である。ガスコンロでギンナン煎りを使って焙煎するのと、プロバットで焙煎するのでは、過程と結果が違うだけで目的は同じである。
何が言いたいかと言うと、焙煎機は道具であって、何らかの結果を保証するものではないということだ。
イチローのバットを持てば誰だって200本安打できるか?と考えるとよくわかる。イチローはバットがいいから200本打てるが、バットが良くなくても180本くらいは打つんだろう。しかし僕らはイチローのバットを振ったところでメジャーリーグのピッチャーから一本だってヒットを打てるわけがない。
プロバットを使ってヒットを打てるのは、それなりの技術者がオペレーションするかなのだ。
「当店はプロバットで焙煎しております」だっておwww
ということであるが、それは今までの歴史を考えると仕方ない。
プロバットで焙煎することが最高の選択肢だったという時代が長かったからだ。それは何かと言うと、結果(出来上がった豆)を評価する共通語が無かったからだ。極端に言うと、COE以前は好き勝手に「これ最高」とか「ぜんぜんだめ」とかいい放題だったわけだ。
それがCOEでは「これは世界基準で良い豆と認定しました」となったわけで、その生豆を買って焙煎して「良い焙煎後の豆」にならなければそれは焙煎者の腕の問題ということになるわけだ。
つまり、一定の「正解」が提示されている状況で焙煎をしなきゃならんということである。
プロバットを使ったからって「正解」を出せるかどうかなんか保証されてないよね。手網焙煎で「正解」が出ちゃうかもしれないよね。
これらをあわせて考えると、ひとつの焙煎の未来が見えてくる。それは「焙煎技術の収束と多様化」である。
おっとここからがホゼのとんでも理論ですよ、準備はいい?
いまや焙煎の正解が世界中に提示されている。
これは生豆の正解が提示されているということと同義である。素晴らしい生の豆=素晴らしい焙煎後の豆、とならなければならないからだ。
そして生豆の正解とは、例えばCOEで提示されている。
すなわち、焙煎をするということは、ある一定の正解を目指すということなのだ。COEで1位を獲得した豆を焙煎したら、失敗してしまい、コマーシャルコーヒーより不味くなった、ということは可能性としてはあり得るが、その逆は無い。
最高の豆を焙煎したら、やはりそれは最高でなければならない。
ここに「焙煎技術の収束」がある。今、まさにその段階と言えるだろう。最高の生豆を最高の焙煎後の豆に変える方法を、世界中のロースターが探している。そしてその錬金術は、別々に発見したとしてもかなり似通った方法になることは間違いない。
誰もが正解に近い技術を獲得したらどうなるか。次に来るのは創造と工夫である。正解に甘んじない焙煎者は必ず、その次の段階を目指す。そこが「焙煎技術の多様化」である。従前のてんでばらばらの理論で多様化していた時代とは違う。同じメソッドを踏襲しつつ、オリジナルの何かを付加した焙煎方法で勝負する焙煎者がしのぎを削る時代が来る。
そのときの土俵はどこか。
僕は中煎り~深煎りだと思う。今、普通に飲まれている深煎りとは全然考え方が違う深煎りの技術で、あっと驚くようなカップになるんじゃないか?そんな思いでワクワクしている。
望むべくは、そのときに僕もいちロースターとしてその中に身を投じていたいものだ。


8 thoughts on “未来の焙煎事情とは

  1. 個人的には深煎りが好きです!!
    同じ豆でも店によって味が全然違いますからね…自家焙煎で個性を消費者が選ぶ余地があるのは良いことだと思いますけど。
    この豆はこの味って決めつけられるのはいかがなものかと。
    焙煎士の個性で売る時代がくるんですかね?

  2. こんにちは!
    ちゃんと煎れてる深煎りはうまいですよね~
    これからはどの深さまで煎ってるかではなくて、どういう味に仕上げるために煎ってるか、という時代になると思います。
    もちろん、焙煎士の個性で売るという時代になっていくと思います!!

  3. はじめまして。最近ブログを発見して、楽しく読ませていただいています。
    さて、ロースターさんですが。さる飲み歩き系HPでは評価されていませんでしたが、「オンデマンド焙煎」というのは、一つの選択肢だと思います。
    僕は千葉市在住(たたし現在は長期出張で海外におります)なのですが、緑区おゆみ野に「COFFEE BEANS」という焙煎屋さんがいまして、このお店がオンデマンド、つまり、注文を受けてから焼く形態を取っています。
    ガス火に小型のロースターを使用しています。
    たしかに、この方式では大釜で炒るほど均一にはできないでしょうけど、ロースターさんとの会話が楽しいんですね。
    「この豆、ドリップで淹れてみたらすごい美味しかった。ただ、もうちっと酸味が欲しいから、若干、浅めに炒ってくれませんか?」・・・みたいな。
    「良い購入環境」は、良いコーヒーライフに多分に影響すると思います。
    一杯の味も大事ですが、もっと大事なのは、「いかに、より楽しいコーヒーライフを送るか」ということではないでしょうか。
    いずれにしろ、「コーヒーは技術だけで飲むもんじゃない」と思います。

  4. さんきちさんこんにちは!
    まずオンデマンド焙煎についてですが、もし少量のオンデマンド焙煎で安定して良い焙煎結果のコーヒーを安価に提供できるのであれば、これは素晴らしいと思います。しかし、ほとんどの場合、オンデマンド焙煎はこれらの条件を満たしにくいところが難点だと思います。
    ここでは個々のお店については言及いたしませんので、一般論だと思ってください。
    しかし、僕も焙煎の多様化には諸手を挙げて賛成なので、今後、素晴らしいオンデマンド式のロースターさんが出てきてほしいなと思っています。
    前段が技術論なのに対して、後段は精神論(?)でお話いたします。
    もうひとつ、コーヒーライフについてですが、基本的には僕の考え方は「コーヒーは自由だ」でして、各人それぞれに素晴らしいコーヒーライフというものがあると思います。Aさんに正解であるものはBさんには不正解でいいと思います。
    極端に言えば、インスタントコーヒーだけの「素晴らしいコーヒーライフ」という状況があってもいいと思います(例えば無人島にいてインスタントコーヒーしかないとか)。さらに言えば、コーヒーは年に一杯しか飲まないけど、それが素晴らしいコーヒーライフだ、という可能性だってあると思っています。
    僕は、日本中の誰もがそれぞれの素敵なコーヒーライフを送ってもらいたいと思っていまして、できればそのコーヒーのクオリティが少しでも良いものになるようにと下から押し上げていこうと思っています。
    今後ともよろしくお願いします(^^)

  5. 古い記事にコメントつけたにもかかわず、丁寧にお返事いただき、ありがとうございました。ご迷惑ついでに、もう一発・・・。
    僕は、プロのバリスタ、もしくはプロシューマークラスの方が豆屋に求めるものと、僕のような単なるコーヒー好きが豆屋に求めるものは、たぶん、違うと思ってます。
    僕としては、「最高の一杯」を求めているわけではなく「最高の豆・焙煎」を求めているわけでもありません。「普通に美味しい一杯」と、それを淹れるための豆が欲しいわけです。
    それぞれの人にとっての「普通」は、当然、人によって違いますが、売る側の観点からは、その最大公約数は今どこにあって、その「最大公約数的な普通」を意図する方向にもっていく(より多くの人に商品を売る)には何をするべきか、ということを考えることになるんじゃないかと思います。

  6. こんにちは!
    もちろん、おっしゃる通りの話で、このエントリで書いていることはギークのタワゴトです。最高の一杯を求める人がいて、その一杯を実現しようとする人がいる、という話です。
    しかし世の中にはさまざまな消費者がいるのが当たり前で、それぞれにマッチした豆(生豆のクオリティ、ロースト、抽出など)があると思います。
    ただ、このエントリにあるようなギークな人達が技術を競ってブレイクスルーしてこそ、その最先端のテクニックやメソッドが世の中に広まっていき、コーヒー全体のレベルを上げていくのではないかと思っているわけです。宇宙技術が一般生活にフィードバックされる、とかそういう意味合いです。やっぱり、こういうギークがいないと、技術が上がっていかない(あるいは上がるスピードが遅い)ということになるのではないかと思われます。
    消費者は自分が納得するものを購入すればいいと思います。それが最先端なのか、枯れた技術なのか、それともその中間なのか。それは自由です。
    でも、すべてのコーヒー消費者が、いつもよりもう少しだけ美味しいコーヒーを飲めて、少しだけ幸せになって欲しいと思います。そのために、技術は進歩すべきだと思っています。
    (なんか偉そうにすいません・・・)

  7. 偉そうだなんて、そんな。
    エスプレッソや、エスプレッソでお金をもらうことに対する真摯な思いが伝わってきて、いつも楽しく読ませてもらってます。
    さて。
    技術面では確かにそうでしょう。技術的ブレークスルーは、トップバリスタやトップマニア(?)から発信されるものだと思います。
    しかし、商売として見た場合、日本におけるエスプレッソ(をベースにした飲み物)のブレークスルーはスターバックスであったこともまた、事実だと思います。
    ただ、僕(普通のコーヒー好きです)がそうであるように、スタバのエスプレッソは美味くない、ということに気がつき、「これは本当にエスプレッソなんだろうか」という疑問を持っている人は、きっと、少なからずいると思います。
    これからしばらくは、そういう層に働きかけて、「これがエスプレッソです」と胸を張って言えるものを提供していただくことが大事なんだろうと思います。
    (もちろん、僕はダブルトールラテのヘイゼルナッツフレーバーがけが好きな人を否定しているわけではありません)
    かといって、ちと極端ですが、もし、そこでいきなり、豆がスペシャリティばっかりになっちゃったら、それも、ちと違うかな、と。
    実際、イタリアのエスプレッソでスペシャリティグレードの豆を使っているケースなんて皆無でしょうから。(illyの赤なんてアラビカ50%のロブスタ50%ですしね。でも、淹れる人が淹れると、ちゃんと美味しい。)
    なので、豆屋さんは、「いつも買うスーパーの豆より100gあたり50円贅沢したら、こんなに美味しい豆が手に入るなんて!」くらいの感動を買った人に与えることを、まず狙ってみてはいかがかと。
    で、だんだん、お客が味をしめてくれれば、豆屋としてもしめたもの。きっと次は、産地、ブレンドや焙煎での違いを楽しむようになるでしょう。
    あるいは、「同じ豆を、こないだよりちょっと深く焙煎したら、どうなんだろう」みたいなことを思う人も、いるかもしれない。
    あるいは「豆ソムリエ」というか、お客さんのカルテ作っておいて、「こないだお買い上げいただいたケニアの豆は、お客さまは軽めがお好きということでしたのでミディアムで焼かせていただきましたが、実はもう少し深く焙煎しても、また違う、深い味わいがお楽しみいただけるんですよ。いかがでしょう」・・・みたいなことをやったって、良いんですよね。
    そこで、オンデマンドというのは、けっこうイケてる方法論だと思うのです。もちろん技術的には、サンプルロースターで均質な焙煎に挑まなければならないという難しさがありますが、そこで何かしら、技術的にも商売的にもブレークスルーがあるかもしれない・・・ですよね?
    なんにせよ。
    エスプレッソも含め、コーヒーは日用品だと思います。日常の中で消費するものであって、たまに贅沢して高い豆を買うことがあったとしても、基本的にはやはり、毎日飲めるものであって欲しいのです。
    その制約の中でどこまで美味しいもの、本物と呼べるものを提供していただけるか。いかに楽しく買いものができるか。
    それが、僕が一人のコーヒー好きとして、業界の皆さんに望むことです。

  8. ごめんなさい。1箇所訂正。
    アラビカ50ロブスタ50は、illy赤(は100%アラビカ)でなくて、Lavazza赤です。
    いずれにせよ、イタリアの有名ブランドの豆でスペシアリティグレードを謳っているものは見たことがありません。

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