Skip to content →

2013JHDC顛末記(1)予選編

SCAJ2013も盛況のうちに終了し、僕の2013JHDCも終わったので、記録のために顛末を書いていきます。


まず、JHDCとは何かというとこれ。
SCAJのページ
メニュー左側にSCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)が主催する大会がずらっとならんでるけど、その中の一つで、まだ若い大会で今年やっと二年目(二回目)となる、ペーパードリップの大会だ。
ちなみにJHDC以外の大会はすべて、概要や歴史といった、紹介のページが用意されているがJHDCはいきなり参加者募集のページが開く。委員会の方、概要のページを用意していただけますとうれしいですね。
んで、大会の流れとしては、こんな感じ。
って、昨年が一回目、今年で二回目ということもあり、ルールが固まってないところが多く見られ、予選の流れなんかも「今年はこうだからね><」みたいな感じになってる。
中の人たちがなるべくいい大会にしたいと日々頭をひねり、知恵を出してルールを作り変えているので、去年と様変わりしたところも多い。実感としては、ジャッジとしては去年より良くなったと思う。競技者の方たちはどう思っただろうか。
ちなみに、来年の大会でまたルールが変わる可能性があるので、以下の流れは今年版ってことでお願いします。
<地方予選・一回戦>
クジによる4人一組の予選から一人、当該予選日の午前/午後決勝へ勝ち抜け
使用するコーヒーは当日知らされる
器具はほとんど持ち込み無しでできるくらいに用意されてるけど、ポットなど持ち込んでもいいものがいくつかある
プレゼンすることもないし、服装も自由、さらに器具もほとんど会場にあるのでなんだったら手ぶらで来れるくらいの気軽さ
<地方予選・決勝>
勝ち残り4人一組で、予選日の午前/午後決勝を争う
ルールは同じ
<ビッグサイト・決勝第一ステージ>
4人一組で第二ステージ勝ち抜けを争うが、勝ち抜けるのは1組の中で上位2名
ルールはほぼ同じ(会場が違うため、細かいところですこーし違うところがあったが無視できる範囲だと思う)
↑↑↑ここまでとここからで全然違う競技になります↓↓↓
<ビッグサイト・決勝第二ステージ>
一人ずつ競技、自分で持ち込んだ豆をプレゼンしながらジャッジへ提供
カップの中の液体の評価だけで完結した決勝第一ステージまでと違い、
・そのコーヒー(液体)をきちんと自分で評価しており、その評価をジャッジに的確に具体的に伝えられる
・抽出係としてだけでなく、サービス係としても一流である
・もちろんカップの中の液体が美味しい
というのが(非常にざっくりだけど)評価基準になるので、これまで職人っぽく「美味しいコーヒーを抽出する」ことだけに専念してきた競技者が、いきなりエンターテイナーとして動かないといけなくなるわけだ。
たいへんである。


はい。というわけで、去年も務めたジャッジを今年もやることになったわけです。
話はもうずっと前にさかのぼるわけだけど、打ち合わせやらカリブレーションやらあって、実際に予選日になるところまでは、たいして面白い話もないので割愛。あっというまに東京予選第一日目。
使用するコーヒーは当日知らされる、というのは競技者だけではなくてジャッジも同じである。
競技に使用するコーヒーを、午前の部であれば朝イチ、午後の部であれば昼過ぎに渡されるわけである。
渡されて、ジャッジはどうするかというと、ちゃーんとカリブレーションをするわけである。そのコーヒーに対する「共通の認識」を共有するわけである
そのためには何回もドリップして何回も飲まなきゃならないわけだけど、ここでしっかりと意見交換して基準を合わせておかないといけないから、大変である。基準が作れるまで何度も何度も飲むわけである。
そして、予選のジャッジに臨むわけなんだけど、主についたての向こう側にずーっと座ってるので、ジャッジ紹介のときくらいしか皆さんの前に出ることは無いというもうほんと黒子みたいな役目。
ついたての裏でとにかく飲み、採点し、飲み、採点し、飲み・・・とやっていくわけなんだけど、予選のスケジュールというのが、午前の部を4組(4人一組)やってそれぞれの勝者で午前の部の決勝を行い、午後の部も同じようにやる、それを三日間ということになっており、三日間で合計30セットの競技を行わなければならないということになっている。とにかく忙しい。これはジャッジもそうだけど、運営スタッフ、ボランティアの人たちもとてもとても忙しいのだ。しかし、こちらがしくじると競技者の皆さんにものすごい申し訳ないことになるので、忙しいからなどと言ってられず、とにかくスムースに競技が進むことに全員で全力投球し、実際になんとか滞りなく競技会が終了できたのではないかと思っている。
予選競技がどんな感じだったのかはこちらのブログをご覧ください。雰囲気がわかると思います。
JHDCへの想い|The heart is wrapped
SCAJの中の人のブログです。
和気藹々としながらも真剣勝負、完全なイコールコンディションでの腕試しだから出てる人も見てる人も手に汗握る競技会だった。


それではジャッジ視点でのJHDC予選の感想を。
予選のジャッジをやって、これは!と思ったことが二つある。
ひとつは、ハンドドリップ難しすぎということ。
もうひとつは、美味しいは正義ということ。
ハンドドリップがどんだけ難しいかということだけど、その理由はまず、なんと言っても安定感なさすぎる抽出方法だということだ。
機械的な計測ができる部分が少なすぎる。
ヤマカンとかいつも通りとかこんくらいとか、そんなんで抽出に臨まなければならない。とにかく、そのときそのときで抽出条件が変わりすぎるのだ。
まず湯温だ。注ぎ始めのポット内の湯温が90度だとして、温度計を刺して90度になった、よし注ぐぞ、というタイミング、その後の湯温の変化はどうなるかわかる?当然湯温はポットの温度に影響される。ポット全体の温度はどのくらいだったの?重量比でお湯に対してポットが10分の1もあれば、湯温に対するポットの温度が与える影響が大きいのは言わずもがな。また、ポットに入れるお湯の量が多ければ温度変化が少ないのはわかると思うけど、だからと言って、最初にポットに入れるお湯の重さを計るなんてしないよね。
次にコーヒーの粉。1杯分12gの粉を使うとして、ミルには12gの豆を投入するよね。ガーっと挽いて出てきた粉はきっちり12gだろうか。いや、んなことはないわけで、ミルの歯から粉の排出口までのところの粉の残りがあるので、きっちり入れた分が出てくるわけじゃない。もし0.5gも残ってたら(それは見た目には微々たる量なんだけど)4%ほどの誤差になる。前の時に残ってれば今度はそれが押し出されてきたりして、前後で言えば1割近い誤差が出る。150㏄抽出するところ、165㏄も抽出したら、けっこう違うなって感じになると思うんだけど、それと同じくらいの誤差が挽いたときに発生する可能性があるってこと。
はい次。抽出。お湯を何回かにわけて入れる人、ツーっと筋のように入れつづける人、いろんな人がいるけど、同じように注げるわけがない。コーヒメーカーじゃないんだから。これはみなさんよーくわかると思う。
というわけで、大きな要因を三つ書いてみたけど、これ以外にもドリップというのは均一に淹れさせるもんかっていう意図のもとに設計されたんじゃないかと思うほど、同じ結果を得にくいようにひとつひとつの工程がデザインされている。
その原因はと言えば、つまるところ「人が操作する部分があまりに多すぎる」ということになる。人間というのは、それほどに同じように同じことをやるのが苦手であるということだ。同じ結果を出す、ということにかけてば、数千円で買えるコーヒーメーカーにも劣るということだ。
この難しすぎるハンドドリップで、均質かどうかということがスコア上重視されているというのは、勝ち上がるにはかなりハードルが高い。幸運や偶然に期待するんでなければ、相当に練習を重ねないと結果が伴わないルールである。
そして勝ち上がった人たちは、やっぱりちゃんと練習をしてきたんだろうね。均質であった上、美味しかったんだからね。
はい、そしてもうひとつの感想、美味しいは正義であるということ。
抽出というのは、ある程度理論があって、こうやるとこういう風味になるというのがある。熟練した抽出者ならば、整理整頓した知識でなくとも経験則でなんとなくこーしたらこーなるってわかってるようなことである。また、大会に出ようなんて人たちだからおそらくはたくさんの条件で抽出をしたことだろう。そうすれば、自ずとその理論めいたものに近い経験をしてきていると思う。
つまり、出場者は「こんな風味特性で」と狙って抽出してきていると思っていいわけだ。
さて、そんな「狙った」風味特性はどうなるかというと・・・ 狙いすぎるとあんまり好ましくないんだなこれが。
とにかく香りをバーンと出してやるぜ→味がスカスカです
ボディ感で勝負だ→シブ味でも勝負しちゃいましたね
飲みやすくシルキーなマウスフィールで→印象に残らないです
しっかり抽出して口当たりを強く→飲みにくいです
みたいなことが往々にして起こるわけ。
どっかをピーキーにすると、その弊害が出てきてしまう。
じゃあどうするかというと、平均を狙うと好ましい風味になるんだね。バランスをよく表現しようとすれば、自然とほかの項目(酸であるとか、後味であるとか)も向上していく。
平均からこぼれない程度の振れ幅の範囲内で個性を出していくというのが良さそうである。実際、得点が高かったのは、そういうカップであった。どれほど狙い通りのカップになったとしても、そのカップの印象が破綻していては高得点は望めない。
平均的なカップというのは、美味しいのだ。減点法で言えば、あまり減点がないカップである。加点法で言えば、どの項目もほどほどに加点されているカップである。つまり、得点しやすいカップなわけである。
得点できているということがすなわち美味しい、ということではない。得点できている、というのはスコアシート上の話である。各項目でそれなりにいい点を取っているということであり、それ以上でも以下でもない。
しかし、実際に得点できているカップは美味しいのだ。好ましい風味特性を持っていると言い換えてもいい。逆に得点できてないカップは、好ましくない風味特性(の項目が少なくとも1つ以上ある)なわけ。ここに相関があるのは間違いないので(じゃないとスコアがおかしな話になるのでこれは当たり前の話なのですが)、とにかく美味しいという風味を、好ましく思う風味を高次元でバランスさせることを狙っていただくと、得点につながっていくのじゃないかと思う。
「しっかり味が出てるけど雑味は感じず、薫り高く、飲みやすく、後味も良く、全体に破綻していないようなカップ」と言うのが高得点につながるし、こういうカップは飲んで美味しいのだ。
そして決勝にコマを進めた競技者たちは、こういうカップであったはずだ。
というわけで、長くなったんで続きます。


Published in 雑記