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コーヒーを3か月エージングしてみたら

焙煎後48時間という話が話題になりましたが

ちょっと前に、ブルーボトルの日本一号店が開店して、その時に「お店で販売するコーヒーは焙煎後48時間以内」という話が巷で話題になった。
確かに、焙煎をしてすぐに販売することは良いことだと思う。少なくとも消費者にとって「いつ飲むか」という選択肢が増えることになるわけで、それでネガティブな要素になることは無かろうと思う。
自家焙煎店だと、たいていはフレッシュなコーヒー豆を手に入れることができると思う。普段から豆の回転がいい店であれば「これ今日焼いた豆ですねー」「あー今焼い上がったんでハンドピックするまでちょっとだけお待ちいただけます?」などというシチュエーションはそんなに珍しくないと思う。

美味しさをアップする「エージング」

最近は日本でもエージングビーフとか熟成肉とかいう言葉が一般化されてきて、高度な技術で肉を長期保存することで美味しさがアップするという手法が知られてきている。音響の世界でもスピーカーのエージングなどということがあるようだ。
そしてコーヒーも、エージングによる風味特性の変化、それも良い方向の変化ということが注目されている。
焼きたての、釜から出したばかりのコーヒーというのは、一般消費者はあまり飲んだことが無いと思うけれども、これは実はあんまり美味しくないのだ。いかにも「焼きたて」な風味(香り、味)が強烈にするので、本当にそのコーヒーのチカラを感じることが難しい。
そして焙煎後の豆はゆっくりと炭酸ガスを発生するという話を聞いたことがあるかと思う。コーヒー豆の袋には中から外へ向けて一方通行で気体が抜けるバルブが付いているのだが、それは、炭酸ガスを逃がすためである。炭酸ガスが抜けるまでの風味は、どうも喉のあたりがイガイガするような感じがある。
そして焙煎後数日したころ、やっとコーヒーは本来のチカラを発揮し始めるのだ。

では、どのくらいのエージングが良いのだろうか。あるいは、どのくらいまでがエージングでどこからが劣化(あるいは古くなった)と言えるのだろうか。

実際に長期エージングした豆を検証してみた

銘柄Aで1か月ほど前に焼いた豆と、焼いて数日の豆を比較。銘柄Bで3か月前に焼いた豆と焼いて数日の豆を比較した。
自分で焙煎しているので、同じ焙煎になっていることを焙煎データから確認できるので、そこは自家焙煎の利点であった。データを見るに、プロファイルが同じであるので、ほぼ、同じような風味特性で焼きあがっていると推測される。
※実際に同じかどうかというのはタイムマシンでも使わない限り絶対に検証できないので、これは推測である

ブラインドのカッピングで、それぞれ比較をした。
銘柄Aでは、恐らくエージングしたほうが総合評価では良いのではないかという予想をしていたのだが、これはまさに予想通りであった。
風味の違いで最も大きかったのは、味の丸みである。もともとクリーンで透明感のある風味のコーヒーであるが、それでも比較すると焼いて数日の豆にはとげとげしたところが感じられる。1か月のエージングで、それがすっかり消えていた。明るさという点では一歩譲るものの、果実感やフローラルな感じに厚みが出て、良くなっている印象であった。ところどころ、エージングによるネガティブな変化も見られたが、主に良くなっているほうに変化してる部分が多く、総合力では、1か月のエージングをした豆のほうが上回っていると言っていい。

そして銘柄Bである。3か月というのは、ほぼ賞味期限いっぱいである(SSEでは賞味期限を3か月に設定してある)。
当然、古くなっているわけで、よく僕らが言う「古くなった味」がするはずであった。
・・・と書いてお察しの通りであるが、実は、3か月前に焼いた豆のほうが、総合的に美味しいと言えるような結果になったわけで、これは本当にびっくりした。
風味が弱くなっているのは弱くなっているのだが、驚いたことに「悪くなっていない」のだ。むしろ、良くなっている部分さえ感じ取れる。そして特筆すべきは、こちらも味の丸みである。よくなめした上等の革のような口当たりになっている。明らかに向上している。そしてボディ感が素晴らしい。ねっとりとした深みを感じさせる。これは焼きたての豆には無かった特徴だ。まさかの予想を覆す結果に、何度も確認のためにスプーンで啜ったくらい、意外であった。

当然、悪くなっている部分や、明らかに弱まっている部分というのがあるわけで、エージングしたから手放しに良くなるというものではない。また、ロースターの考え方や手法によっても、焼きたてのほうが良い結果になるものもあるだろうし、今回実験したSSEの豆のように、意外と長期に耐える豆もあるということである。
あらゆるコーヒー豆に当てはまるわけではないということを前提に、次章を読んで欲しい。

いつまでがエージングでいつからが劣化なのか

実際にエージングをしてみたところ、弱くなったり悪くなったりする部分もありつつの、同時に良くなっていく部分が確認でき、それらを総合して考えると、焙煎後の風味は直線的に劣化していくわけではなく、一定期間を過ぎてもだんだんと弱くなっていきながらも、質としてはむしろかなり長期に渡り良い方向へ変化していくことがわかった。
どこまでがエージングかというと、実験の結果、特定の豆では3か月は十分にエージングということになり、劣化はそれよりもかなり先に始まると言っていい。

おまけ(今回のエージングの方法について)

今回のエージングは、冷蔵庫や冷凍庫は使わず、冷暗所に保管するという手法を採った。ひらたく言えば、段ボールに入れて倉庫に突っ込んでおいただけである。ご家庭でも非常に真似をしやすい方法ですので、興味のある方はぜひやってみて下さい。

おまけ2

SSEの豆、それも、銘柄2種だけでしか実験してませんからね。くれぐれも記事の内容は自己責任でご使用下さい。あと、焼きたて豆が一方的にダメってわけでもないので誤解のないように。

おまけ3

3か月経過の豆、試しにドリップしてみたら本当にびっくりするくらい豆が膨らまなかった。というわけで、おまけとして「ドリップ時に豆が膨らむことと美味しさはあまり関係が無いかも知れない」という説を補強する結果も得られて二度美味しい実験でした。


Published in コーヒー

8 Comments

  1. いつも楽しく拝読させて頂いております。
    私も学生ながらビジネスとしてのコーヒーを考えており、
    特に若者に向けての記事は耳の痛いお話でした。
    ギークなだけではダメなのですよね
    いつもブログの情報量が多く、すごく勉強をされているんだなと感じるのですが
    そういった科学的、経済的に合理性のある知識をどのように学ばれるのでしょうか?
    (大雑把な質問で申し訳ありません)

    今回のエージングの話も大変興味深く、以前どこかで読んだ
    カフェ・ド・ランブルのオーナーの方がエージングコーヒーについてコーヒー界の権威である人と論争したというのを思い出しました。
    エージングコーヒーは日本ではよくみかけることもあり、以前はサードウェーブ万歳!
    酸化した豆なんか飲めるか!といったイデオロギーに固まっていたのですが、この機会に自分でもカッピングをして分析してみようと思います

    • Shigeru Jose Sugiuchi Shigeru Jose Sugiuchi

      こうさんこんにちは。
      酸化というのは大変に難しい問題で、酸化そのものはいつでも発生しているのですが、問題は酸化した風味だけを感じ取れるかということなのですね。それだけを取り出して感じ取れなければ酸化が悪い影響を及ぼしているとは言えませんし、それを感じ取れても影響が十分に小さければ悪くなると言えませんから。
      エージングというのは、良くも悪くも経時変化させているということです。経時変化した結果どうなったかというだけのことで、良い面も悪い面も時間経過と同時に増えていっているわけですので、酸化して悪くなっている部分も当然に内包しています。何事も程度問題ですね(定量と定性)。

      >そういった科学的、経済的に合理性のある知識をどのように学ばれるのでしょうか?

      については、勉強するしかないと思いますよ。ひとつの方法としては、とにかく本をたくさん読むことです。人は一生のうちに3万冊くらい読むことができると聞いたことがあります。まだ若いのですから、3万冊目指してがんばってください!

  2. はじめてコメントさせていただきます。
    焙煎後の豆は、2-10日前後が美味しいと言う話を色々なコーヒー屋さんで聞いていたので、今回のお話はとても新鮮でした。次回豆を買ったら、一ヶ月、三ヶ月後に味がどのように変化するか試してみたいと思います。質問ですが、エイジングに適した豆の焙煎度合いや特徴というのはあるのでしょうか?

    また、今回のお話は焙煎後の豆でしたが、少し前に渋谷にある「茶亭羽當」というお店で、生豆の状態で湿度管理などをきちんとして20年程エイジングしたコーヒーというのを飲む機会がありました。ものすごくまろやかで深みのある味わいで、ほとんどコーヒーが残っていない状態でも、カップに香りが充満しているようなコーヒーでした。生豆のままだと、一体どのくらいまで持つものなのでしょうね。

    これからも投稿楽しみにしています。

    • Shigeru Jose Sugiuchi Shigeru Jose Sugiuchi

      Lindaさんこんにちは!
      いつも読んでいただいてありがとうございます!

      焙煎したコーヒーのエージングにしろ、生豆のエージングにしろ、ケースバイケースすぎて「何が正解」というのは無いんですね。一応は、基本的なセオリーというか、どうしたらどうなるというような因果関係や相関関係について、経験知的にわかっていることがありますが、それがどのくらい科学的に正解かというのは調べてないのでわかりません。
      しかし、個々のケースについて言えば、自分で確かめたことが事実ですから、それはひとつの正解なんだと思います。
      これからも、コーヒーを楽しんでください!

  3. R R

    こんにちは、先ほどエスプレッソについて検索していたところ、前のブログからこちらに飛んで参りました。ステキなブログですね!!豆のエイジングやフィルターや牛乳や、いつも疑問に思っていたことを実際わかりやすく細かくマニアックに書かれているのでとても勉強になります!
    先ほど見つけたばかりなので全部は読めていませんが、少しずつこれからよませて頂きたいと思います。これからもがんばってください!

    • Shigeru Jose Sugiuchi Shigeru Jose Sugiuchi

      R様こんにちは。
      少々マニアックすぎるかとも思いますが、なるべく実際にコーヒーを職業にしてる人、したい人に役立つブログになればと思って書いています。
      こんなブログを読んでいただいて大変ありがとうございます。
      これからも、ライトな話題からマニアックな話まで、幅広くコーヒーにまつわる話をアップしていきますので、また覗きにきてくださいね。
      また、Rさんのブログも、のんびり読ませていただきたいと思います!

      • R R

        いえいえ、昨日は本当にこちらのブログを発見できて小躍りするほど嬉しかったです。今訳あってイタリアでバリスタをし始めたのですが、いろいろ今まで学んだことが当てはまらないことが多く迷子になっておひました。でもでもこちらのブログで学んだことを再確認、また新しく、納得のいく知識が得られるのでなんだか落ち着きました!!これからも楽しみにしています!!!!!

        • Shigeru Jose Sugiuchi Shigeru Jose Sugiuchi

          お褒めの言葉ありがとうございます!

          大変はげみになりますが、同時にもっといい記事を書かなきゃとプレッシャーも(笑

          イタリアでコーヒーを淹れているとは羨ましいですね。
          つたないブログですが、海を渡ってお役に立てているようでこちらもうれしいです!

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