コーヒーチケットとは、その名の通りコーヒーの券(の束)である。
喫茶店やコーヒースタンドでよく使われた
いわゆる喫茶店とか、昔風の、よく駅の構内やビルの食堂街なんかにあったコーヒースタンドなんかで、コーヒーチケットなるものが利用されていたことをご存じの方はそこそこ年配な気がするが、まあそういうものがあった前提で話を進めていく。
もちろんいまでもコーヒーチケットというのは、減少方向になっているが現役で使われており、例えば、有名なところではコメダ珈琲でも取扱いがある。
http://www.komeda.co.jp/menu/ticket.html
昔の会社員と言えば、お気に入りの喫茶店やコーヒースタンドのコーヒーチケットを必ず財布に忍ばせていた、というようなイメージがあるが、さすがにいまの会社員が同じようにコーヒーチケットを愛用しているかというと、そういう人はもはや少数派というかほとんどいないんじゃないかなと思う。
で、いまでは知名度もずいぶん下がったのではないかと思われるコーヒーチケットであるが、使ったことはもちろん、見たことないよという人もいるのではないかと思うので、どんなものなのかというのを軽く説明しておこう。
コーヒーチケットは、回数券のコーヒー版である。縦長に何枚かつながっていて切り取り線で一枚ずつ切り離して使うタイプや、冊子状になっていて切り取って使うもの、また昔の鉄道の切符よろしく使うときに切り込みなど印をつけていくものなどがある。
前払いをするため、すこしおまけがついていることがほとんどであり、おまけは割引である場合が多い。11枚綴りの券を10杯分の値段で販売する、などである。コーヒーチケットはその都度一枚ずつ切るわけだが、ボトルキープならぬチケットキープをやっている店も多かった。チケットを買うがそのチケットは店にあずかっていてもらって、行けばそのチケットを店員が一枚切っておくわけだ。無くなったら店員が客にその旨伝えると客は次のチケット代を支払う。店にはコーヒーチケットがずらーっとウン十人分も並んでいるということになり、スタッフはさぞかし大変だろうと思うのだが、その昔、カランカランとドアを開けた顔を見るなりチケットを探し出しビリっと一枚ちぎるという風景をよく見たものである。
毎日一杯二杯と飲むわけだから、少し安く飲めるしチケットを切って渡すとお金を出す手間も無いし、金欠になってもチケットさえ残ってればコーヒーはなんとかなるしと、働く会社員には欠かせないものだったろう。
コーヒーチケットが衰退した理由
コーヒーチケットがなぜ衰退したかという理由には、次のようなものが考えられるだろう。
まず第一に、毎日同じ店で決まったものを注文するというスタイルが一般的ではなくなってきたということだろう。
もちろん20年前だって、会社員一人当たりのコーヒーを飲ませる事業所の数は今とそう変わらないとは思う(やや減少傾向にあるとは思うが)。しかしその多様性というのは昔とは比較にならないだろう。選択肢の多さから、チケットでの消費行動というのが合理的でなくなってきたということがあると思う。
次に、チケットを買ったほうが得であり手軽であるというほど、コーヒーをたくさん消費しなくなったことが考えられる。
これは喫茶店から見て、会社員というコーヒーチケットの最大のマーケットが極端に縮小しているということである。ランチタイムに、はて定食をワンコイン(500円)で食べるべきか、それともコンビニでパンを買ってしのぐべきか、などという話になる現代では、コーヒーを毎日飲むというのは安くない出費であると言わざるを得ない。
なお、新生銀行の調査によると、会社員の昼食代(外食)は1990年頃と比べて約3分の2に減少しているそうである。
pdfファイルであるが、参考リンクはこちら→http://www.shinseibank.com/cfsg/questionnaire/archive/pdf/2012/121205okozukai_hakusho_full.pdf
コーヒーチケットをデジタル化
コーヒーチケットのデジタル化ということでは、スターバックスやタリーズが行っているデジタルギフトが思い浮かぶが、これは回数券とはちょっと違う感じ。スターバックスではデジタルドリンクチケットというものも用意しているけど、これは500円を1杯分として500円の利用ができるだけで、厳密に1杯分のコーヒーチケットとは違う。
なんでもデジタル化の時代であるからして、プリペイドカードが物理カードからアプリ内になったように、コーヒーチケットも一枚ずつもぎれるような形でアプリにすれば良いわけなのだが、コーヒー、あるいはドリンクなどの価格が決まっているもののチケットを管理できるアプリも出回っているもののメジャーになっていない。
つまり、コーヒー1杯分の金券的なものを先払いで(デポジットして)購入して分割して使うというスタイルが利用されにくくなっているということだろう。
それとは別に、いわゆるプリペイドにしたギフトカード(物理カードでも、デジタルギフトでも)は、ドリンク以外にフードや物販でも使えるし、また譲渡(プレゼント)もできるため、使い勝手が良いのか一定の人気があるようだ。
コーヒーチケットがwin-winに見える仕組み
従来のコーヒーチケットがwin-winであった、あるいはそのように見えたため、以前は人気だったと思うのだが、店舗と消費者にとってどのようにメリットがあったのか、見てみよう。
わかりやすく、消費者には10杯ぶんの金額で11杯飲めるということがある。よくあるコーヒーチケットはそのような綴りになっており、単純に1杯無料になるというものだ。よく利用する店舗であれば、いずれ使い切るわけだから、先払いすることで無料の1杯がついてくると思えば必ず得できるということになる。
店舗側としては、顧客の囲い込みがある。1杯無料にする代わりにその顧客はチケットがある限り、必ず来店してくれるわけで、時々はケーキや軽食も注文してくれたら万々歳である。
お互いに十分にメリットがあり、目立つデメリットとしては消費者は先払いになること、店舗では1杯ぶん無料で提供することだけである(なおコーヒーを1杯無料で提供することは、店舗側としては提供価格ではなく原価ぶんのマイナスでしかないので思ったより小さいことに留意)。
これはあきらかにwin-winである。めでたしめでたし。
……と話を終わるわけにはいかないのである。
店舗の本当の狙い
消費者にとっては前段以外に特にメリットは無いのだが、店舗側には前段以上の大きなメリットがある。というか、そのメリットがあるからこそ無料の1杯をつけてもコーヒーチケットを販売したいのだ。
一般にコーヒーチケットに限らずプリペイド式である場合、その消化率が8割〜9割とされる。さまざまな分野、業種、業態でプリペイド方式を採用しているため、差はあるものの、いずれにしろ全て使われるわけではない。昨今では買い物するたびに何かしらポイントが発生することがほとんどだが、誰でも「ポイント失効」という経験はあるのではないだろうか。
コーヒーチケットもご多分に漏れず、使われないものが発生する。会社員であれば転勤だったり、または引っ越しなどで、その店舗が物理的に遠くなった場合。うっかり失くしてしまった場合。なかなか使えず期限を迎えてしまった場合。いずれにしても頻繁に起こり得るものではないが、稀に発生してしまう事象である。そしてそれが発行枚数のうち1割以上あれば、店舗はまったく損をしないのである。そして一般的なプリペイドの消化率からすると、損をすることはないと考えられる。
これこそが、喫茶店がコーヒーチケットを売りたい本当の理由である。
プリペイドカード・ギフトカードは、より消費者に嬉しい仕組み
コーヒーチケットが衰退していった理由が前段のカラクリにあったかどうかを検証したソースは発見できなかったのだが、それにしてもコーヒーチケットが時代にそぐわなくなってきたことは間違いない。いまやデジタルの時代である。そこで台頭してきたのがスマホに入るプリペイドカードやギフトカードである。
まず第一にスマホ(スマホアプリ、以下同じ)に入れておけば失くす心配がない。またその金額内であればコーヒー以外にもフード、物販と使えるので使い勝手が良い。そして期限が来そうであればその金額までなにかに消費してしまえば良い(コーヒーチケットは通常、コーヒーとしか交換できないので、今日5枚使うなどというのは難しい)。
消費者の志向が紙のコーヒーチケットからスマホに入るプリペイド・ギフトカードへ移行していくのは当然の成り行きだろう。
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