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コーヒーっていい香りだよね

もちろん、良くない香りのコーヒーもあるんですけど。

あるんだけど、まあコーヒーの香りっていうのは皆さん割と好ましいと思って嗅いでるよね。

子供のころ、インスタントコーヒーの瓶を開けると、コーヒーの香りがして、スプーンでカップに入れて、砂糖もどっさり入れて、クリープももっさり入れて、お湯を注いでかき混ぜたらとってもいい香りがして、オトナの世界に片足踏み入れたような気がしたものだ。あるいは高校に入ると喫茶店で生意気にも「モカください」なんて言って(さすがモカは香りが違う)なんてわかってもないのにこれまたシブいオトナを真似したりしたものだ。大学生になって、それまでの自分の世界には言葉しか存在していなかったエスプレッソというものに出会う。バイト先のパティスリーカフェでの話だ。苦いエスプレッソをバイトの日は飲むことにしてて、(イタリア人はこれを飲むのだ、濃縮された香りがすごい)なんて思ったんだが、イタリア人のマネをしてみただけでそのエスプレッソが美味しかったのかは不明だ、というかかっこつけて無理して飲んでたなあ。

さてコーヒーの香りっていうのはいったい、なんなんだろうか。

子供のころの僕はインスタントコーヒーの瓶を開けたときに「香ばしい」と思った。

高校生のころの僕はモカを注文して「いいニオイがする」と思った。

大学生のころの僕はエスプレッソを飲んで「いろんな香りが凝縮されてる」と思った。

で、いまコーヒーを生業にしているわけだが、コーヒーの香りを表現する言葉は、専門的なものも含め、非常に多くの単語、表現を日常的に使っている。

で、コーヒーの香りっていうのは何かというと、たくさんの香り成分が組み合わさって鼻で感じるものである。「コーヒー」という単独の香りは無いので、「このコーヒーはいい香りだね」という場合には、まずたくさんの香りの集合が全体でコーヒーっぽさを構成していて、そのうち良いと感じている要素がいくつかあるということになる。

子供のころの僕は全体としてはコーヒーっぽいニオイががするインスタントコーヒーのうち、焙煎によって生成されたフランやピロンなどの香りを「オットナー」と思って嗅いでいたのか、という話である。

よくコーヒーの香りについて「ベリー」などと書かれていることがある。コーヒ―専門店のコーヒー豆の案内なんかに書いてあるのを見たことがある人もいらっしゃるかと思う。もっと細かく「クランベリー」などと書いてあることもある。あまりコーヒーの興味のない人にとっては「コーヒーにクランベリーの香り? となるかもしれないが、さきほど述べた通りでコーヒーの香りっていうのはいくつもの香り成分の集合体なので、クランベリーのような香り成分も持っていてもおかしくない。ラクトン類などを感じることでそう思うのだろう。

ところでクランベリーという香り、もちろんベリーという香り、単独の香りは存在しないので、ラクトン類などのほかさまざまな香り成分が混じってのクランベリーの香りということになる。コーヒーの香味成分は600もの化合物でできてる(いろんな説がある)ので、その中のいくつもの化合物がほかの食品や自然界にある何かと同じということは有り得る話である。

人として生まれてこのかた、いろんなものを食べたり飲んだり、または自然にある何かと出会ったときに、これは良い香りだとか経験してきて、もちろん逆に良くない香りも経験してきて、だから我々にはたくさんの香りの経験のストックがある。コーヒーの香りを嗅いで「良い香りだ」などと思うのは、経験の中で良いと思われた何かと相似しているとかあるいは同じだとか、あるいは良い結果を引き起こすことがわかっているからだ。

コーヒーの香りはいい香りである。しかし何が「良い」のか、何をもって「コーヒーだ」と思っているのか、それはなかなか単純な話ではなさそうだ。


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