絶対に長く続くつもりのカフェを経営していくための準備についてお話します。
カフェ開業までの最初のステップを踏む前に考えること
カフェ開業までのおおまかにはこんな流れになります。
1.開業の計画を練る
2.計画に基づき資金を準備する
3.出店エリアを決めて物件を探す
4.物件を契約する
5.内外装を仕上げる
6.開店する
カフェ開業本やサイトなんか見ると、だいたいこんな流れです。
細かくはいろいろとあるんですが(おいおい説明しますね)、おおまかな流れはこういった形で説明されることが多いです。
しかし、本当に長く続くカフェをやるつもりなら、カフェ開業の準備をするまえに準備しておいたほうが良いことがあります。
カフェ開業本やサイトでは語られることのない、準備を始めるための準備、の話です。
カフェ成功者を見習うと、開業準備が失敗しちゃうかも?という仮定
有名な老舗のカフェがあるじゃないですか、たとえば鎌倉のカフェ ヴィヴモン ディモンシュ、那須のSHOZOといった、カフェブームの初期から続く名店ですが、ディモンシュもSHOZOもオーナーの強烈な個性とお店の魅力がすごくて、単なるカフェではなく文化やファッションとして地元のみならず日本中、いや世界へと影響を及ぼしています。
また、比較的新しい、と言ってももう20年前後になりますか、スペシャルティコーヒーど真ん中世代の有名カフェたち、例えば東京ならベアポンド、アマメリアエスプレッソなど2010年前後のカフェは、いま開業している多くのカフェオーナーが憧れたり勉強させてもらったりしたのではないでしょうか。
ディモンシュの堀内さん、SHOZOの菊地さん、ベアポンドの田中さん、アマメリアの石井さんなどご自身の店舗を成功させるのみならず、その後開業したカフェに大きな影響を与え続けているというオーナーがいらっしゃいます。
彼らを見て、あるいは彼らから教えを請うて、カフェ開業を成功させることはできるでしょうか? 可能性を少し上げることはできるかもしれませんが、彼らの言う通り、彼らがやった通りにやっても、成功はおぼつかないでしょう。なぜなら彼らはスーパースターだからです。
いま日本で最も有名なアスリートの一人、大谷翔平選手から野球を教わることがあったとしても、あなたが、いやあなたではなくても誰一人として、投手としてもバッターとしてもメジャー屈指の結果を残したり、メジャーの両リーグでMVPを受賞したりはできないのです。スーパースタートはそういうものです。
成功を真似るのは不確実、失敗から学ぶのは確実、という推測
自己啓発本などで「成功者7つの習慣」みたいなのをよく見かけます。成功者には7つの共通の習慣があるそうです。読んだことはありませんが、洋の東西を問わず成功者であればおそらくは「外出のときには靴を履く」とか「部屋が暗くなれば電気を点ける」とか「日に少なくとも一度、たいていは三度の食事をする」とかそんなもんでしょう。そういう、成功者に共通する習慣、ルールなどを真似したところでなにかを成し遂げられるとは思いませんが、なぜか7つとか、5つとか、少ないときには3つとか、少ない手数で成功できるように書いてあることが多いです。
北野武さんが言ったと思うんですが「大企業の社長が訓示でこう言うんだ、自分が若いころは宴会なんかでみんな靴を脱ぐ場面では最後に全員の靴を揃えたもんだ、ってな。それが成功の秘訣だって言うんだ。もしそれが本当なら、旅館の下足番はみんな出世する」という話があり、これが端的に表していますね。成功者の習慣やルールなど真似ても得るものは多くないでしょう。
なぜそうなるかと言うと、成功者の習慣やルールと成功には因果関係が薄いかあるいはまったく無いからです。もしかしたら相関すら無いかもしれません。北野さんの発言で言えば、脱ぎ散らかった靴を揃えることが原因であり、大会社の社長になるというのが結果である、という論理は無理がありすぎることがわかります。しかし「成功者7つの習慣」のような本では、あたかもそこに重要な因果関係が潜んでいるかのように、風が吹けば桶屋が儲かる式の論理を展開しているのです。靴の話であれば「宴会場の靴を揃える→揃える前にだれがどの靴かを覚えておく→上司や部下の靴の好みがわかる→革が好きなら本物志向、合皮なら合理的な考え方だとわかる→上司や部下それぞれに対応を変える→上司の覚えは目出度くなり部下からの信頼は厚くなる→出世する」といった寸法です。はい、皆さん同じ感想を持ちましたね。そんなわけあるか、です。
それに比べて失敗のほうは割と因果関係がはっきりしていることが多いです。習慣やルールが失敗という結果に向かうというのは、よくあることです。これは主に悪いほうの意味で因果応報ということができます。例えば、バーの経営者が高級なお酒仕入れても売る前に自分で全部飲んでしまうとか(放漫経営)、建てる家がたいてい雨漏りしてしまう工務店であるとか(技術力不足)、閉店、倒産まっしぐらという事例は、もうほとんど例外なく不幸な結末を迎えることになります。
失敗のリスクを下げる法則があるのではないか?
カフェが長く続くというのは、二通りの場合を考えることができます。
ひとつは成功すること。もうひとつは失敗しないこと。
長く続けるためにはどちらの方法を採るほうが良いでしょうか? え、どちらも同じだろって? いやいやそんなことはないんです。例えば、こんなことを考えてみます。すごく簡単な例です。
AさんとBさんがじゃんけんをします。1回の勝負につき、勝ったほうは負けたほうから1点をもらうとします。
確率の問題になりますが、二人でじゃんけんをした場合に、二人の出す手は
あいこになる組み合わせ グー:グー、チョキ:チョキ、パー:パー
Aが勝つ組み合わせ グー:チョキ、チョキ:パー、パー:グー
Bが勝つ組み合わせ グー:パー、チョキ:グー、パー:チョキ
となりますので、勝つか負けるかあいこになるかはぴったり3分の1ずつです。
AさんもBさんも、じゃんけんで勝つか負けるかは同じ確率ですし、勝ちでもらう点数と負けで支払う点数が等しいので、この勝負を何回も続けてやっても、どっちも結局は持ち点が変わらないという結果になりますね。
それでは、何回も繰り返し勝負をしたときに、収支ゼロよりも上にいる期間が長いか、下にいる期間が長いか、それとも収支プラスとマイナスを行ったり来たりしていることが多いか、ということを考えます。
逆正弦法則というものがありまして、勝ってる人は割とずーっと勝ってる(収支がプラス)ことが多く、負けてる人は割とずーっと負けてる(収支がマイナス)ことが多いんです。プラスマイナスゼロのあたりにいる、という可能性が一番低くなるという、ちょっと直感に反するような法則なんです。
例えば100回勝負で、最初の10回でプラスに振れた場合にはその後勝ったり負けたりランダムに推移しても100回目までの間はプラスに居続ける確率が、逆に最初の10回でマイナスに振れた場合にはそのままマイナスに居続ける確率が高くなるのです。
(ただし、何回も繰り返し勝負をしたときに確率的に最終的な収支はゼロに近づきます。この法則が主張するのは、それまでの経過を辿ったときにはおおむねプラスにいた、おおむねマイナスにいた、という確率が高く、ほぼプラマイゼロにいた、という確率は低い、ということです。勝つ人は勝ち続けるとか負ける人は負け続ける、ということではないことに注意してください)
詳しくはヨビノリの動画を見てください。
では、それを踏まえて、このような条件を追加します。
Aさんは勝ったときにBさんから3点をもらいますが、負けたときには3点を支払うとします。あいこの場合は取引無しです。Bさんは勝ったときにAさんから1点もらい、負けたときには1点を支払います。あいこの場合には取引無しです。
さあ今度はどうでしょうか。どのような結果になると思いますか。
結論から言いますと、繰り返し勝負をした場合には最終的にプラスマイナスゼロに近づくが途中経過ではプラスかマイナスに偏って推移する可能性が高い、ということになり、その部分では特に変わることはありません。
では何が違ってくるかというと、その振れ幅です。プラスに振れるにしろマイナスに振れるにしろ、AさんはBさんより3倍プラスへ、あるいはマイナスへ振れることになります。途中経過では大勝ちまたは大負けすることが考えられるということです。でも長く繰り返せば結局は収支プラスマイナスゼロに近づくんですけどね。
と、じゃんけんの話をしてきましたが、これをカフェ経営に置き換えて考えてみます。AさんとBさんが直接対決するわけではなく、お互いに「市場」のプレイヤーとして全体の中で勝負すると考えます。
Aさんは借り入れの返済が30万円、テナント料が30万円、人件費が30万円、それぞれ毎月かかるとします。そして毎月の売上予定は100万円です。片やBさんはその三分の一、借り入れの返済とテナント料と人件費がそれぞれ10万円、売上予定は33万円です。市場にはたくさんのプレーヤー(お店)がいますが、といってAさんBさんどちらも勝ち負けの確率が変わるわけではないので、逆正弦法則が成り立ちます。
このとき、お店が立ち行かなくなる、つまり資金がショートしてしまう確率が高そうなのはどちらでしょうか。じゃんけんと同じことが起きますが、最初のほうでプラスを記録できた場合にはそのままプラスにいる確率が、最初のほうで赤字になった場合にはそのまま赤字で推移する確率が高くなります。このとき、AさんのほうがBさんより、3倍大きい振れ幅になりますので、もし最初にプラスに振れていたらその後そのプラスを保持したままお店を続けるようになり、もし最初のほうで赤字に振れた場合にはその赤字を抱えたまま推移していくことになりますが、その金額がAさんのほうが3倍大きいということです。
毎月プラスになるかマイナスになるかはランダムだとして、どちらが、マイナスが続いたときにお店のお金が無くなってしまうかというと、Aさんですね(逆にプラスに動いたときにはAさんのほうが利益を大きくすることができます)。
逆正弦法則をうまく使うと、スモールビジネスのほうが失敗しにくいという予想が立てられます。
開業の準備のための準備とは何か
市場にはたくさんのライバルがひしめいています。
おっと、たびたび「市場」という言葉を使っていますが、これは経済学用語でもあります。モノやサービスが取引される場所、というような意味で、一般的に使われる「しじょう」「いちば」よりももう少し広い意味で使われます。
さて、市場にいるライバルたち、この場合大手グローバルチェーンから個人店まで大小さまざまですが、いわゆるカフェというのがライバルになりますね、それらライバルたちよりも少しは儲けないと(収支をプラスにしないと)自分のお店は存続していけません。
このシリーズの目的は「長く続く(つもり)」なので、末永く続けるためにどうしたらよいかということを考えていきますが、まずお店を作る準備をする前に、その準備が上手くいくように準備しておいたほうが良いという話が、結論になります。
あなた(カフェをやりたいという人が読んでいると仮定しています)はいま、逆正弦法則という概念を身につけました。これは小さな武器かもしれません。しかし、これからお店をやっていこうとするあなたには、少なくとも無駄ではない知識です。そして多くのカフェ経営者が知らない知識です。すなわちあなたはライバルに対しひとつ優位なポイントを稼いだということです。
よくあるカフェ開業本やウェブサイトで語られるのは、開業の準備からです。しかし前段までにお話したように、準備をする前に勉強しておいたほうが良いことがある、いや勉強しておけばきっと失敗のリスクを下げる武器になる、ということがあります。
それらは直接、カフェ開業に役立つとは思えない、あるいは一見関係が無さそうに見える、そういうたぐいのものですが、しっかりと学べばもちろん、軽くさわっておくだけでも開業準備をスタートするときに違いが出てくる、そういうものたちです。
一例として逆正弦法則をあげましたが、このように直接は結びつきが想像できないけど実際にはその知識が経営を助けるというようなことがたくさんあります。カフェを開業したい、できるだけ早く、と思う気持ちも大事にしていただきたいと思いますが、いろんな知識を身につけてそれに備えるというのも、とても大事だと思いますので、開業準備をする前に、準備のための準備をしましょうね、というお話でした。
次回はどんなことが役に立つかというお話をします。
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