自家焙煎店のミニマムな形態から湯水のように生豆が焙煎豆になり売れていくビッグな自家焙煎企業までの観察日記。
特に、わりとストイックにスペシャルティコーヒーだけを扱っているお店の場合ということで書いてます。
(いくらか妄想入ってます。珍しく少々ネタ臭い記事です)
自家焙煎店の覚えておくといい焙煎機から焙煎量を求める公式
A)適正な焙煎機サイズを求める 一日の予定焙煎量(kg)÷店頭銘柄数=適正な焙煎機のサイズ(kg)
※焙煎日が決まっている(週に3回とか)場合は、焙煎する日の平均焙煎量にする
※焙煎機のメーカー公称最大焙煎量ではなく実用焙煎量とする
B)月間の最大焙煎量を求める 焙煎機サイズ(kg)×200=最大の焙煎量(kg)
※実用焙煎量とする
そのメーカーの実用焙煎量がわからない場合、使っている焙煎屋さんで聞いてください。
例えばSSEにあるディードリッヒは、メーカー公称最大焙煎量が実用焙煎用になりますが、他メーカーでは、公称最大焙煎量の50~60%程度が実用焙煎量ということもあるそうです。
というわけで。
焙煎量ごとの自家焙煎店について観察してみよう。
焙煎量 ~100kg
たいていの自家焙煎店はここからスタートする。
自家焙煎店を開業したばかりでは、店頭売りでなかなか豆が売れず、併設のカフェでの自家消費頼りになる。カフェが少々忙しくても、挽く量はたかが知れているのでそれほど焙煎することができない。平均2kg/日ペース前後となり、月間数十キロの焙煎量である。
焙煎機は、手回しから5kgまでのものを使うことが多い。5㎏釜で銘柄が多い場合、焙煎量がアンダー100kgというのはかなり焙煎機が大きい印象であるが、先々焙煎量を増やしていくという場合、大きめのものを買うのもアリである。
生豆は小分けされたものを買う。麻袋で買うことはかなり難しい。当然、ツルシというか、商社が小分け販売している商品の中から買うことになる。サンプルを取りよせてテスト焙煎してから銘柄を決めるというのが、焙煎量的にまだ難しい。
店頭ラインナップも、いくつかの銘柄を展開することはできるが、多品種にすることは難しく、売れそうな銘柄と、ハウスブレンドといったところで選択と集中をしなければロスが多くなってしまう。
よく言われる最初の壁、100kgの壁というのがある。
全く無名、全くプロモーションせず、特に立地も良くなく、なんのコネも無い。そんな自家焙煎店がなかなか越えることができない壁なのだそうだ。
豆売りがメインということでこのクラスにいるとなかなか贅沢な暮らし向きというわけにはいかない。単純に50kgの半分が豆売り、半分がカップになるとして、500円/100gの豆が250袋で12.5万円、300円でカップを売って37.5万円。合計で50万円である。いろんな支払いをすると、とてもやっていけない。
早く100kg以上のクラスへ移らないと、経営基盤がぜい弱すぎて、いつでも廃業の危機と背中合わせと言える。
しかし、豆売りというよりもカフェ重視である場合、小さな釜で日々の豆を焼き、カップにして売るというスタイルで一人で(あるいはアルバイトを雇って)運営するのであれば、カフェがそれなりに繁盛すれば豆も古くならずカップ売りで利益も十分に得られる(例えば500円でカップ売りして50杯、ケーキなども出れば売上は3万円/日くらいになる)ので、こぢんまりとしたお店をやりたいという人にはなかなか良いサイズ感である。焙煎機などの機材スペースや生豆をストックするスペースに食われない分、客席を広く取れるなどメリットもある。限られたお客様を相手に目の届くサービスを、というようなスモールビジネスを希望する人も多いと思う。そういう人がやると、はまるサイズ感である。
焙煎量 100~300kg
店頭売りが増え、いくつか卸先も決まった。これでめでたく100kgを超えることができた。ある程度店頭売りが最初から見込める(焙煎人として実績があるとか、知名度があるとか)場合、または卸先が最初からいくつか確保している場合は、スタート時点でこのサイズから始まるところもある。
焙煎機は3kgから10kgとなるのだろうが、やはり10㎏というのは少し持てあますかも知れない。しかしメーカーによっては公称10kgが実働5kgというところもあるので、釜のサイズは公称値を鵜呑みにできないのだが。
100kgから300kgでその差が三倍とはずいぶん間が広いクラスだなと思うだろうが、このクラスではあまりやることやれることが変わらない。
簡単に言うと、豆は売れてきたが2店舗目はまだ持てないクラスである。
麻袋で豆を仕入れることができるし、ラインナップも増やすことができる。卸先もいくつか抱えて業販もやる、インターネットで通販もやる。場合によっては産地に視察に行ったりもすることができる。
いくらか知名度も上がり、メディアに掲載されたりイベントに呼ばれたりし始め、商売の幅が広がるのもこのクラスから。
法人になっている場合もあるが、まだ一般的な企業という感じにはならず、正社員の雇用ができる場合は稀である。
良くも悪くも立ち上げた人(焙煎人)が一人で切り盛りするという印象が強く、焙煎人=そのお店という見られ方をされる。例えば「誰誰くんの店」というようなイメージである。
300kgの壁ともよく言われる。いまというより、少し前、10年くらい前にはもうだんだんと聞かなくなってきたように思う。300kg焼けるようにならないと、商売を続けていくのが難しいよ、と。
しかしそれは実際にこのクラスにいる自家焙煎店は大変に多く、アンダー300kgでもやり方によってはそれなりに商売を継続していくことができるようである。それは、商材がスペシャルティコーヒーにシフトして、高付加価値、高単価になってきたことも関係あるかも知れない。
しかし、依然として300kgの壁は存在しており、その店で何か変革がないと、300kgを越えていくことができない。新しく開店したところがこのクラスにひしめいているように思う。
そしてこのクラスから次のクラスへとチェンジするために、支店を出すということがある。
ほとんどの場合、アルバイトを雇ってお店を運営することになると思うのだが、人件費が支出の中で大きくなってくる。カフェで利益を稼ぐということをきちんと考えていかないと、このクラスでは楽な経営になっていかない。逆に言えば、カフェで利益を稼げている場合、焙煎・豆売りというのはかなり自由度が高くなるということである。銘柄数、在庫量(買い付け量)、やり方によっては焙煎を良い意味で贅沢な趣味のようにやれる。自分が全部やりたいけどあまりに小さすぎるビジネスでは心もとない、少し世の中にインパクトのある仕事がしたい、ひっそりとというよりもその街ではココと名前が通るような店を作りたい、価格面でもサービス面でももう少し大きなロースターと似たレベルの自家焙煎店をやりたい、そういう人はこのあたりが住み心地がよさそうである。ステップアップしていくも良し、目と手が届く範囲でこの規模をキープしていくも良し。
焙煎量 300~800kg
このクラスになると、焙煎機は10kg前後のものを使うことになる。
うまくすると、最初から300kgくらい焼ける自家焙煎店としてスタートすることもできる。それなりの初期投資と宣伝が必要であるが。
小さい釜からやってきた店の場合、焙煎器を買い増しか買い替えをしていることが多い。ステップアップしてきた場合には、400kg、500kgと増えてきたときにまだ使用中の焙煎器で足りているとしても、この先まだまだ増えると考えれば釜を大きくする時期になってくる。支店を持っている場合もあるだろう。しかし、まだ本店で全ての焙煎をしていて、本店の機能はそのままに支店がある、という場合が多い。焙煎所を新たに設けるほどにはまだ至らない。
年間で5~10トンの生豆を消費できるとしたら、産地への買い付けで、欲しいロットを狙って購入するということも可能になってくる。麻袋に店の名前を入れてオリジナルロットで輸入するようなことができてくる。
また、COEなどオークションものに入札できてくるのもこのクラスからだ。単独では難しいかもしれないが、何軒かで共同落札ということが見えてくる。
年間どのくらい使うかということを考えて豆の手当てをしておかないといけないクラスでもある。この豆は何袋、この豆は何か月間、というような計画性をもって一年を考えないといけない。
店舗経営ということだと、支店を出すのもこのクラスからになるだろう。焙煎量を増やすのに最も効率がいいのは、支店を出すことである。1店舗で、カップ売りの消費も含め100kg~の販売量を見込めれば、支店を出店してもペイできる。豆売りが好調になってきて、支店で200、300キロと一人前の販売量になってくればしめたものだ(当然、人件費もかかってくるので、実際には販売量に応じて利益がじゃんじゃん増えるということではない)。
雇用形態に正社員というのが出てくるのもこのあたり。中堅どころというような店が増えてくるクラスなので、焙煎技術も継承されており社長というか創業者が買い付けその他で外に出ることが多くても、焙煎は滞りない。むしろ、焙煎人が創業者から従業員に替わっている場合もあるだろう。
いわゆる社長業というようなことも増えてくるが、まだまだイメージは「自家焙煎店の店主」である。自分の店を持ちたい、というような、よくある開業希望者に多い開業理由の場合に、もっとも大きいサイズが、イメージとしてこのあたりだろうと思う。ここまで大きくなるかどうかは別にして、なんの後ろ盾もない個人でスタートする自家焙煎店を志す人たちがまず目指すところがここまでということになろうかと思う。
焙煎量 0.8トン~3トン
このクラスになると、もはや焙煎屋さんである。自家焙煎店というよりも、焙煎屋さんという感じになる。
焙煎機は15kg~30kgになり、卸売りが多く、焙煎ばっかりやってるイメージである。
卸売りが多く、店頭売りもやっているが焙煎工場っぽくなるパターンか、直営店舗が多く焙煎工場から各店舗にグルグルと配送しているパターンかになる(そのハイブリッドも)。一店舗しかなくて1トン以上焼くというところもあると思うが、そういう場合、そのお店はバカみたいに繁盛店に見える。
生豆はある程度の量を店内、あるいは焙煎所内にストックしており、焙煎業務は分業制になる。
一か月に1トン以上焙煎するとなると、60キロの麻袋で20袋というレベルであり、計画的に生豆を買っておかねばならない。すぐにショートしてしまう。
創業者の個人名というよりも店の名前で知られるようになり、所属のバリスタのほうが創業者より有名になったりなども見受けられる。社長が買い付けに行っててお店にいないときが多い、そんなお店も増えてくる。お店では社長よりもスタッフのほうが認知度が高く、○○コーヒーなどと名前がついていても「社長=店」というイメージでは無くなってくる。
社長が現場(お店)にいるとスタッフに「うろうろしないでください邪魔です」などと言われるのもこのクラスから(冗談のような本当の話だ)。
最初っからこんなサイズで焼ける個人店などというものがあれば、それはまったくイチから始めるということではなく、一定以上の業界での実績とコネクションがあり、スタートするときに投下できる資金がある場合であろうから、まあ稀だと思われる。
このサイズになってくると、自分ひとりでなんでもやるというのはもう無理である。焙煎をしたいのであればそのほかの業務を誰かに任せなければならない。それでも焙煎ばかりやってるわけにはいかず、雑多な社長業というような仕事をやらねばならない。ひっそりと自分の焼いた豆を買いに来るお客様のために焙煎だけやりたいんだ、というような人はもうこのクラスでは生きていけない。自分の店に対して生活や仕事というものをある程度以上深く関係してしまっている人たちがいるので、お客さんに対する責任のほか、従業員や取引先への責任というものが相当に重くなってくる。
大変だ社長さんは。
焙煎量 3トン~
例えば月3トン焼くということになると、60キロ麻袋で50袋である。オーマイゴッド。50キロずつ焙煎しても20バッチである。オーマイゴッド。想像もつかんわ。月に300キロの自家焙煎店が10軒てことだからね、すごいね。
特に3トンで区切った意味ってあんまりなくて、僕の中で「1トン、2トン、たくさん」という感じで3トンくらいより上はもう何トンでも一緒みたいなイメージだからである。
もちろん20トン焼いている焙煎屋さんと比べたら3トンの焙煎屋さんというのはスケールが小さくはなるけど(そしてスケールメリットも小さくなるけど)、話を聞くとあんまり変わらないよね。
どっちにしても「社長さん」というイメージになり、「焙煎人」という感じではなくなる。むしろ、このサイズになっても焙煎に没頭できるような人は、よほど焙煎そのものが好きなんだろうなあと思う。スペシャルティコーヒーだけを扱っててこのクラスということになると、当然のように買い付けという海外出張が多くなり、自分が焙煎ばかりやるってわけにいかないよね。それでも寸暇を惜しんで焙煎しているというような社長さんがいるけど、もうそれは焙煎が好きってことなんだろうなあ。
港湾に倉庫を自前で借りてるとか、リーファーコンテナを自分の分だけで仕立てるとか、話の規模が大きくなってくる。コンテナ一本で300袋として約2トン、なにそれ一か月で消えますが、とか。
スペシャルティコーヒーだけを扱う自家焙煎店というくくりのお店で、3トン以上焼いてるって、何軒くらいあるのかな。あそことあそこと・・・ いやーこのクラスを目指すのは大変だわ。狭き門過ぎる。
ちなみにこのサイズのお店(会社)の社長さんあるあると言えば・・・
・店頭でコーヒー淹れてると珍しがられる
・淹れたはいいがどのカップに注げばいいかわからずにまごまごする
・社長の顔は雑誌などで見ることのほうが多い、というスタッフがいる
・社長のメインの仕事はFacebookの更新だと思われているフシがある
とまあ、半分冗談であるが、コーヒー豆を焼くとかコーヒーを淹れるという現場にはどうしても立てないというのがこのサイズになると仕方ないところなのだろうが、それは仕方ないと割り切っていくしかないのだろうなあと(想像だけで)心情を察する次第である。
まとめ
スペシャルティコーヒーだけを扱うとしても、さまざまな形態があるし、ビジネスのサイズも(良い悪いということではなく)大小がある。自分がどういう仕事をしたいのか、ということから、自分がスタートする(あるいはすでにスタートした)ビジネスの着地点をどのくらいのサイズにするかというふうに考えてもいいのかなと思う。
【Aさんの場合】
自分の店で使う豆をオリジナルのロットで農園に作ってもらいたいから、焙煎量をもっともっと増やさないといけない。月に数トンというところまでいけば、農園とタッグを組んで商品(コーヒー豆)開発できる。
【Bさんの場合】
焙煎した豆は大切な自分の分身みたいなものだから、自分が納得いく扱い方をし、納得して買ってもらいたい。だから、焙煎量がいたずらに増えるのはいやだ、毎日自分が手渡しでお客さんに渡せる分だけを焼く。
【Cさんの場合】
焙煎が好きだから、焙煎技術を磨き、どこにも負けない最高の焙煎を追及したい。自分の焼いた豆を気に入って来てくれるお客さんに行きわたれば十分。売らんかなという豆ではなく、愚直に品質の良い豆を売りたい。良さをわかってもらって買ってもらいたい。
とは実際に僕が焙煎人から聞いた話である。彼らのビジネスがどのクラスなのかは置いといて、誰の言い分にも一理あり、焙煎量的にはどれが正解というもんではない。
これから焙煎屋をやろうって人も、いま既に自家焙煎店をやってるって人も、なにをやりたいかということとは別に、どのくらいの規模でやりたいかということもしっかり考えてみてもいいのかなと思うのである。
おまけ
スペシャルティ「だけ」を扱う自家焙煎店は、僕のブログを読んでいる人にとっては当たり前のお店だと思うけど、世の中一般では割と特殊な店なんだよね。
そういうお店を一般化するっていうのはなかなか難しい。サンプルが少ないので、ちょっと特徴を書くと「あっそれあそこの店だろ!」とツッコミが入りそうで怖い。サンプルが少ないからモデルが具体的に頭に浮かんで書いているというのはあるんだけどね。余計な詮索はしないでいただけるとありがたいですw
おまけ2
焙煎屋というのは、生豆仕入れ屋でもある。魚屋が、魚を捌いて売るのが仕事であると同時に魚を仕入れるのも仕事である、というのと同じことだ。
焙煎するというのが仕事のメインであるように思われるが、自分でもそうだが、焙煎人の多くは焙煎そのものと同じくらい(人によってはそれ以上に)生豆を仕入れることに力を入れいている。
そして、小さいうちはそれを自分でどっちもやっていられたのが、だんだん大きくなるにつれて、生豆の仕入れのほうに力を割かざるを得なくなる、ということになるらしい。
自家焙煎店のひとつのターニグポイントは、焙煎の主導権を手放すとき、というような見方ができるのではなかろうかと思った次第である。
僕もそうなるときが来るのかな・・・?
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