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スターバックスはよく考えられているセルフサービスシステムだ

ちょっと考えさせられる問題があったので。
飲食店でセルフサービスというと、どうしたって「社員食堂」なイメージがある。それも「安かろう悪かろう」とか「効率重視」とか「選択肢が少ない」というネガティブなイメージが強い。吉野家とかすき家とかもコレだろうか。
もしくはマクドナルドに代表されるファストフード店のイメージかもしれない。とにかく早い、安いである。列に並び、コンボを注文する。すぐに奥から温めてある商品が出てくる。決まりきったアイテム(ハンバーガー、ポテト、ドリンク)しか無いので、迷うこともなく精神的には非常にラクだが、つまらない。
しかし、スターバックスはセルフサービスなのに「食堂」「ファストフード」なイメージがない。
それは何故なのか。
一言でいえば「ここでは自分(客)がすべてをコントロールできる」というイメージを植えつけることに成功したからだ。客は常に能動的である。受け身でぼーっとしていると、一生注文できないし飲み物にありつけることはない。もしありつけたとしても、それは平凡な体験になってしまい、ほかの人が得ているような、能動的であるからこそのエキサイティングな経験をすることができないというシステムなのだ。
注文カウンターで自分好みのドリンクをオーダーする。注文に並ぶ列で待っている間にはレジのそばのカラフルなタンブラーやいろんな産地のコーヒー豆が目に入るので飽きない。むしろ待ってるついでに買ってしまいそうになる。
さらに注文カウンターの横にあるクッキーが入ったショーケース。これもついうっかり買ってしまうアイテムだ。
しかしそれらを店員に押し売りされることはない。あくまでも控えめに棚やショーケースに並んでいるだけだ。選ぶ権利はこっちにある。
注文のときには店員に細かく指示を出す。ミルクの温度は、エスプレッソショットはどうだとまるでサッカーの監督がゲーム運びをするようにバリスタを動かす。
飲み物ができるまで、マシンのそばで待つことになるが、これまたサッカーの監督さながらだ。自分の指示通りに飲み物ができるかどうか、バリスタの動きを見張るのだ。
さらに、飲み物を受け取ってからも一仕事待っている。飲み物をさらに細かくカスタマイズしていかなければならない。もちろんスルーしてもいいのだが、自分の好みを追求してオリジナルのカップにすることに、皆余念が無い。
つまるところ、スターバックスが「社員食堂」「ファストフード」と違うのは、誰が支配者かということを顧客が知っているというところなのだ。
決まったメニューの中からボタンを押して今日食べるものを選び、それをカウンターに出して注文した定食が出てくるのを待ち、出てきた定食をただ食べる。
これが食堂である。言い方は悪いが、ただ胃袋を満たすために行くところである。
あるいはすぐに提供できるように紙に包まれて温めてある商品を矢継ぎ早にレジ係りが提供して客を回転させるファストフードは、これまた言い方が悪いが、時間とお金を節約するために行くところである。
どちらにしろ、配給を待つのに近いシステムであり、客は何も考えずに飛び込んで、何も考えずに注文できて、何も考えずに食べることができる。それに加えて、例えば「安い」とか「早い」というメリットもある。悪くないシステムだが、つまらない。つまらない原因は「客は常に受け身」であるからだ。食堂やファストフード店の支配下に置かれ、ルールに則った動きを要請されるからだ。
(もちろんその代わりに得るものもある。食堂やファストフードのシステムが悪いと言っているわけではない)
それに比べてスターバックスは。
お客様は神様じゃないとは思うが、お客様は支配者に見える。店舗のスタッフが客の指示で動いているように見える。

セルフサービスとは、お客さんに自分のことは自分でやってもらうということだ。その代わり値段が安かったり、提供が早かったりするわけだが、自分のことを自分でやらなければならないという義務感は客にとっては不満の種だ。

なんで自分で水をくまなきゃならないの? なんで注文したものを持ってきてくれないの? 
(よその店なら水も注文したものもホールスタッフが持ってきてくれるのに!)

である。
それに対して、スターバックスの客は、極端に言えばこんな感じだ。

飲みたくもない水を勝手に置かれることもないし、注文したものがちゃんとできてるかどうか見届けなきゃならないから持ってきてもらうわけにはいかないね!
(ほかの店では高い料金を取るために恩着せがましく水を持ってきて、見えないところから作りたてかどうかわからないものをうやうやしく持ってきやがるんだ!)

客はバカではない(そうでない場合も時々あるが)ので、損をするのを嫌う。
スターバックスは、セルフサービスなのにあまり安くないが、それでも客が「得をした」と思うようにあちこちに仕掛けをしている。その最たるところが「(客自身が)すべてをコントロールしている」と感じるシステムである。
そのシステムを象徴するのが、有名なスターバックスの企業としての信条「きっぱりとイエスと言う(Just say yes)」である。
客は、自分が満足するようにスタッフに注文する。スタッフはその注文に対していつも「イエス」と言う。場をコントロールしているのは客である。そして、コントロールしているという付加価値があるからこそ、スターバックスは、よそよりも高い料金を取ることができるのである。
スターバックスは、コーヒーを通して人に奉仕する企業ではなく、人を相手にしたビジネスでコーヒーを出しているのだそうだ。
だからこそ、顧客のことをよく考え、顧客にいかに満足してもらうかということに主眼を置いているのだろう(ときどき、コーヒーの味よりも重要だと考えているのではないかと思えるときがあるくらいだ)。
企業の姿勢として大変すばらしいし、その姿勢をもとにこのような顧客満足度の高いシステムを構築した(そしてそれを世界中に広めた!)のは本当にすごいことだと思う。掛け値なしに素晴らしい!
さて、お釈迦様と孫悟空の話がある。例の、世界の果てまで行ったと思ったらそれはお釈迦様の手のひらの上の出来事であった、というアレである。
あれれ?孫悟空は誰?
・・・そんなことはどうでもいいか、美味しいコーヒーが飲めれば。


Published in ビジネス

2 Comments

  1. 珈子 珈子

    田舎なので「スタバへ行く」目的でショッピングモールへ行かなければならないのでほとんどいかないのですが・・。面白いお話でした。そうなんですね。
    「満足感」はリピートに繋がりますしね・・。
    コーヒー教室の充実さも聞いてビックリしました。
    コーヒー業界の人ではないコーヒー好きの人にとっては相当魅力のようです。

  2. ホゼ ホゼ

    珈子さんこんにちは!
    ウチのあたり(茨城県牛久市)でも、気軽にスターバックスに行けるようになったのは最近のことですよ、前は「東京に出たからついでにスターバックスに」みたいな感じだったもの。いくらスターバックスが増えた増えたって言っても、さすがにそこらじゅうにあるのは都市部だけですよねw
    スターバックスっていうのは、すごい新しいことをやっているわけではなくて、割と当たり前のことをシステム化して、それを徹底してやっているだけなんですよね。しかしそれをあれだけ高いレベルで徹底してやれているというところがすごい。
    コーヒー好きなら、スターバックスでセミナーに行ったり、バリスタ(いればブラックエプロン)と話をするだけでもいろいろ勉強になるし楽しいと思いますよ~

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