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ドサーの役割とおいしいエスプレッソ

エスプレッソを淹れるにはまず豆を挽く必要がある。
そのためのグラインダなのだが、業務用のグラインダには(大抵の場合)ドサーが付いている。
ドサーとは、ホッパに入れた豆を刃が挽いた後、粉になった豆を決まった量に分配するための仕掛けである。今回、問題にしようとしているのは、その仕組みとおいしいエスプレッソの関係である。
先日、となり街のハンバーガーで有名なカフェに行ってきた。エスプレッソを注文したら、エスプレッソみたいな茶色い飲み物が出てきた。味も香りも無く、色のついた茶色いお湯だ。
注文したものが期待ハズレだったとき、個人的に残すのがイヤなので平らげて帰りたい派なのだが、こういうときエスプレッソはもともと量が少ないので、平らげるのが楽でいい。とにかく砂糖を沢山入れて飲み干して店を出た。入るときに気が付かなかったが、出る時にチラっと見たらデロンギの家庭用マシンが置いてあった。これでカネ取るのかヲイ。怒るでしかし。
その日は飲み歩きをしようかと思ってたので、飲み直しとばかりにその五軒隣りにあるカフェに入るも、今度はサエコの全自動が置いてあったんで、急用を思い出したフリをして席に座らず退散。
そして、今度こそ本当に口直しと豆売りがメインのカフェに行ってきた。前に記事にも書いたところだ。
さて、前おきが長くなったが、このカフェでエスプレッソコーヒープロフェッショナルテクニックという本を貸していただいた。
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著者はデヴィッド・ショーマー。シアトルのエスプレッソの神様みたいな人らしい。
この本には、エスプレッソをどうやったら美味しく淹れられるかというテクニックが余すところ無く書いてある。オマケでもれなく、デヴィット氏のエスプレッソに対する熱い情熱が付いてくるという本だ。
そこにはこんな内容のことが繰り返し書いてあった。
「~コーヒー豆は一杯ごとに挽く。そしてドーシングレバーを5、6回パタパタと手前に引き、挽いた粉を全て落としてしまう。~」
豆は挽きたてを使うのが最も良い。そのためにはドサーに溜めることなく、注文の都度豆を挽くのが最良の手段だという。豆には揮発しやすい成分が多く含まれ、それはカップの中に閉じ込めたい成分なのだから、揮発しやすくなる粉へ挽くのは抽出の直前でなくてはならない。また、風味を損なう酸化を防ぐにも、粉の状態より豆の状態のほうが有利だ。
ヴィヴァーチェでは、どんなに忙しくとも粉の挽き溜めはしない。それは豆は挽いたそばから劣化していってしまうというコーヒー豆の特性と、最高のカップのためには、例えば室温や湿度の変化にも「その一杯分の豆ごとに」対応しなければならないという思想からだ。
ここでもう一冊、エスプレッソに関する本を紹介したい。
バリスタ・ブック
トップバリスタ.jpg
前に行ったんで記事に書いたが、デルソーレというイタリアスタイルのバールでバリスタをされている横山千尋氏が書いた本である。
横山氏、エスプレッソ業界では超が付く有名人である。
そしてこの本にはこんなことが書いてある。
「ドーシングを均一にするために、ドサーには常に6割ほどの豆を挽いて入れておく」
同じ量の豆をポルタフィルタに入れるためには、ドサーが同じ量を落としてくれれば良い。しかしドサー内の粉の量によってドーシングが不安定になる(つまり、ドサー内の粉が多ければ、重量により下にある粉の密度が高まり一回のドーシング量が増え、ドサー内の粉が少なければ逆になる)。
それを防ぐためにはドサー内の挽かれたコーヒー豆の量をある程度の量で一定に保つほうがいい、ということだ。その代わり、挽いてしまった粉が空気に触れ、成分の一部が揮発してしまったり、酸素により酸化したりしてしまうことと引き換えになる。
これは、安定した抽出のためにはまずドーシングが安定しないといけない、という思想だ。
※これについては、前回デルソーレを訪問したときの記事に、ドサー内に半分以上も粉が挽いてあったんで「挽いてどれくらい経つのか」と尋ねたら「20分くらい」という回答だったことが証明している。最高のエスプレッソを飲みに行ったのに、ドサーに挽き溜めされた粉に違和感を持ったのを記憶している。味が落ちちゃうじゃないか、と。
日米のトップバリスタがこれほどまでに違うことを言っているとは!
あくまでも主観であるとお断りしてから言わせてもらうが、デヴィッド氏が「その豆で実現できる最高のカップ」を目指しているのに対し、横山氏は「バリスタができる最高の抽出」を目指しているように思える。
あえて(ヘタな)たとえで言わせてもらえば、デヴィッド氏は孤高の芸術家になろうとしており、横山氏は熟練した職人になろうとしているかのようだ。
私は断然、デヴィッド氏の姿勢に賛成する。
その豆が到達し得る最高のカップを提供する、カウンターの中の芸術家に私もなりたい。


Published in エスプレッソ技術

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