SSEで扱う生豆は、当然「いつどこの誰がなにをどうやって作った」のかがわかる、トレーサビリティがしっかりしたものばかりである。
・・・と言いたいところだが、これがなかなか難しい。
ニカラグアのリモンシリョ農園を所有するミエリッヒ氏は、自前でドライミルを持っている。このドライミルは、ニカラグア初のフルトレーサブル施設なんだそうだ。
つまり、コーヒーの実が持ち込まれてから出ていくまで、常に「コレはこういう素性のものですよ」という札と一緒にモノが動くということだ。何か処理が入れば札に「これこれこういう処理をいついつやりましたよ」と記入される。そうすれば、トレーサビリティについて不明瞭なところはまったく無くなる。そのコーヒー豆については、完全に追跡可能となる。
さて、このミエリッヒ氏の施設がニカラグア初ということは、ほかの施設ではトレーサビリティが少々問題ありそうな気がしないでもない。本当のところはどうかわからないが、少なくとも、フルトレーサブルというのが売りになるくらいなのだから、フルトレーサブルでない施設がほかにたくさんある、と考えるのが妥当だろう。
エチオピアのコーヒーを購入したときの話。エチオピアで買付をした会社から購入したわけだが、買付した会社にお願いしてどのへんまでたどれるかを調査してもらった結果、エリアまでは絞れたもののそれ以上はわからないということになった。
エチオピアのコーヒー輸出協会であちこちからコーヒーを集めてバイヤーに向けて販売会をやるわけだが、その時点でもう「どこの誰が作ったか」という情報は欠落していることがほとんど。今回もソレに当たるケースであった。
それならと直接農協にアクセスしてロットを作ってもらうという手がある。協会を通さずに買えば、より生産者に近いところでやりとりできるから、トレーサブルであろうというわけだ。
エチオピアのイルガチェフェ村に、イルガチェフェ農協というのがある。これは22の農協の集合体なんだそうだ。イルガチェフェ農協で約5万軒の農家を抱えるというから、例えばよく聞くコチャレ農協などという大きい農協は、数千~万の農家を抱えているのだろう。コチャレ農協のコーヒーだと言っても、それはコチャレというエリアまでしかたどれないということである。栽培の詳細は、その農協の指導、管理によるとしか言えない。本当のところはどうなの、と言っても、各農家が摘んだチェリーが農協に来てガラガラポンとロットにするわけであるから、どの農家のものがこのロットに入っているのかというのはわからない。
こんな話があった。ゲイシャ種100%ということでロットになっているので購入したらどうも丸っこい豆が相当数混じっている。これゲイシャじゃないだろうと現地の業者に確認したらゲイシャですと言う。ゲイシャしか植えてない畑だからそれ以外のものがあるわけないと言うんだそうだ。そこで日本の商社のスタッフが実際に作ってる畑を見に言って生産者に話を聞いてみたら、確かにここには最初はゲイシャしか植えていなかったようなのだが、しかしその後ほかの種を植えたかなんかで見事にいくつかの種がゲイシャの畑の中にまだらに植わってしまっている。これじゃあゲイシャだけでロットにできるわけがない。というわけで、その後ゲイシャミックスということになったということだが、じゃあなぜ生産者はこれを「ゲイシャ100%」としてロットにしていたかということなのだが、昔からそうやってたから、というのが真相らしい。それを輸出業者に渡すときにはもう書類上ゲイシャになっているわけ。ズルをするとかゲイシャって高く売ってやろうとかそういうんではなく悪気もなく、ただ粛々とコーヒーを生産して出荷しているのだが、ただその途中で、ほかの木を(うっかりなのかなんなのか)植えてしまったというだけだ。彼らにとっては品種というのはあまり重要ではなかったのかも知れない。
世界中の産地を股にかけて買付をする百戦錬磨のバイヤーでも、不確実な情報に右往左往させられたり、偽の情報を掴まされたり、はたまた作為不作為を問わずダマされたりするという。
食の安全と言われて久しいが、コーヒーのトレーサビリティの問題は、なかなかに難しいようである。
これは農水省のサイトに掲載されている、食肉(牛生肉)のトレーサビリティについての模式図なんだけど、スペシャルティコーヒーもこういうシステムになってくるといいのかも知れないね(コマーシャルコーヒーまでこれを適用するのは難しい気がするので)。
消費者の立場で言うと、トレーサビリティの重要性はどこなんだろうと考えると、やっぱり安全というのが一番だと思う。それはもう食品だから、そこが揺らぐのは本当にダメだ。
どこの誰がどうやって作ったかというのは、わからないよりもわかったほうが安心だ。なにしろ疑問に思えばそこに聞けばいいのだから。もしトレーサブルでないものの場合、これは自分で分析機関に持ち込むなりしなければならない。これはとても現実的ではない。例えば残留農薬を調べるのに、専門の機関に持ち込むと、一個あたり数万円もかかるのがあたr前なのだ。とても自分の口に入るものを全部調べるというわけにはいくまい。
そしてもうひとつ、生産者や関わっている人(会社)を信頼する、応援するという意味もあるんだろうと思う。
例えばカサブランカ農園、これはセルヒオさんが所有する農園なんだけど、SSEは彼の作るコーヒーを毎年購入しているのだけど、もし彼を応援したいから購入するというときに、トレーサビリティなんていう概念が無くて、セルヒオさんの作ったコーヒーを市場で買う術がないとなったら、困ってしまう。
どこどこの誰それが作った作物は美味しかったな今年も買いたいぞ、と思ったら、市場でそれを探せば良い。それがトレーサビリティのもうひとつの効用だろう。
というわけで、トレーサビリティは大事だねという話でした。
スペシャルティコーヒーの世界もトレーサビリティもっとがんばってこうと思います。
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