「○○を自社開発することにより最終製品のコストダウンに成功、低価格化を可能とした」とは製造業でよくある話である。
例えばカメラなら「センサー部を自社開発することでコストダウンに成功」みたいなことになる。果たして自社開発にしたことで本当に安くなっているのかというのはよくわからないが(工場での調達コストは安くなってると思うけど、開発費とか回収しなきゃいけないし、製造ラインを新設したり大変じゃないのかね)、とにかくそういう話はよく聞く。
じゃあ、コーヒーでも同じなのかなと思って、インターネットで入手できる情報だけで検証してみようというのが今回の記事。個別の案件でどうこう言っても、それは個別の案件で千差万別であるので、まあネット上の情報だけで計算してみようかなと。
タイトルを決めて書き始めたこの時点では僕もどうなるかわからないので、実際にソロバンをはじくとどうなるか、結果が非常に楽しみである。
モデルケースを設定する
モデルとなる店はこんな感じ。
「カフェABC」
コーヒーをメインにスイーツと軽いランチも提供するいわゆるカフェという形態で、コーヒーメニューで平均して1日に100杯ほど出る、20坪ほどの店舗。年中無休。セルフ式で従業員は3名体制。コーヒーはエスプレッソマシンで抽出、アメリカーノ300円。
コーヒーは現在、スペシャルティコーヒーを扱うロースターから週に1~2回のペースで発送してもらっている。月の使用量は、1杯15gで100杯、それを30日なので50キロほどになる(ロスになるぶんを含んだ計算)。
オーナーは、いま使用しているコーヒー豆を自家焙煎化することでコストダウンになるのでは、と検討している。
コーヒー豆を業者から卸してもらう価格、つまり卸売り価格
卸価格というのは、卸先の使用量などに応じて変わったり、包装の形態や注文の頻度などでも左右されたりと、なかなか「いくらいくらです」と明記している卸売りさんがいない中、ネット上に価格を公開しているところが見つかったので、例示する。
A店 1キロ購入で店頭価格の90%、ウェブ上に開示している例ではブラジルが定価3,700円のところ、卸価格3,330円
例示の会社では基本1割引きスタートということだが、それでも量に応じて割引率アップみたいなことも書いてあるので、普通にカフェやレストランで購入する量であればもう少し割引があるのだろう。
とは言え、ここでは、ウェブ上で得られる情報だけで話を進めるということになっているので、この価格をベースに考えていく。
念のため、僕は一応、コーヒー業界の末席のさきの縁台のはじっこに遠慮がちに腰かけさせていただいている程度に業界人なので、焙煎豆の卸売り価格というのもおぼろげながらにぼんやりこのくらいかなっていうのは想像がつくのだけど、まあ、上記の価格とそう大差ないと思いますハイ。
で、卸してもらう価格だけど、50キロで166,500円、送料が月に5回だとして5,000円、合計で約17万円となる。
自家焙煎したら、キロあたりいくらになるの?
購入金額はわかった。では自家焙煎したらどのくらいになるのか。
USフーズさんという生豆の商社さんがあるのだが、そちらでブラジルを検索して一番最初に出てくるもので、キロ当たり1,252円、送料は無料だそうだ。
この時点で仕入に対する自家焙煎の価格の比率は、3,330円に対して1,252円なので37%。
さて、生豆を焙煎すると、その重量は減ってしまう。だいたい、15%ほど減ると見ていい。さらにハンドピックすることで5%減って、合計20%ほど減ることになる。ということは、生豆の価格は焼き豆になることで、800gあたりということになる。つまり、1㎏あたりで言えば1,565円。
この時点で仕入と自家焙煎の比は47%。
豆そのものはこのくらいだが、こんどは焼いて出荷するためにかかる費用を足さねばならない。焼くためには電気とガスがいる。1バッチで何キロ焼くかは焙煎機次第だが、キロあたり数十円のガス代がかかる。出荷するためには袋がいる。袋も数十円するよ。電気代も入れて、合計100円ということにしよう。1kgあたり1,665円になった。
この時点で仕入と自家焙煎の比はちょうど50%。
さあここからが少しややこしいのだが、焙煎機代。
焙煎機はなぜか店にあるんだよ、というお店は無かろうから、焙煎機を買うとする。付帯工事含め500万円。それを5年で回収するとして60か月で500万円を割る。すると月に83,333円。毎月50キロを使うわけだが、さきほど説明した通り、目減りする分で考えると(生豆換算)62.5キロを焼くことになる。割り算すると、キロあたり1,333円。これを前段の1,665円に足すと、2,998円となる。
この時点で仕入と自家焙煎の比は90%。
なんか思ったより安くなってないような気がしてますが気のせいでしょうかどうでしょうか・・・
まだ、人件費を計算してないんですが・・・
まだ、焙煎機を設置することで席数が減ることの売上減を計算してないんですが・・・
まだ、電話一本で必要な分だけ豆が届くロスレスの状態から、余ればロスる無駄になるぶんを計算してないんですが・・・
まだ、豆をちゃんと焼くための勉強のコストを計算してないんですが・・・
きっとこれちゃんと計算すると買うほうが安いよという結果になっちゃいそうな気がしますよ・・・
単にコストが低くなるだろうという自家焙煎店化は、この計算結果を見る限り見込み違いに思える。
自家焙煎にしてもコストは安くならない。ならないどころか、むしろ高くなるんじゃないかという気がしてきた。自家焙煎店を営んでいるが、まさかこんなカラクリだとは書き起こしてみるまでわからなかった(うすうすそうじゃないかと思っていたが見て見ぬフリをしていた)。
「自家焙煎にしたらコスト削減になるぞ」と思っているカフェ経営者のみなさん、そこはちょっと難しそうな気配です。僕もこの記事を書いて「自家焙煎店化してきちんと利益を出していくにはなにか工夫が必要だぞ・・・」という気がしています。
まとめ
たぶん、お店の営業形態にもよるけど、いわゆるカフェの場合は、ロースターから必要なぶんだけ買うほうが、コスト的には合うと思う。そのロースターが、好みにぴったりくる(グっとくる)豆を焼いていたら尚更である。そもそも、自家焙煎にして同等のクオリティになる保証はないわけだから、品質と価格のバランスということを考えても、コスト的に有利にはならないように思う。
結局、ここ(焙煎)を内製化したからと言って、コストダウンに直接つながるかというと、恐らくはつながらないどころかコストアップになりかねないと思われる。
マジか。マジか。マジか。(びっくりしたんで3回言いました)
おまけ
自家焙煎店は儲からないと同業の自家焙煎店が皆くちをそろえて言うのだが、今回の記事を書いて、それはそうだなあと再確認した。
おまけ2
あそこやあそこやあそこ、などと例示して、儲かってる自家焙煎店もあるじゃないかというツッコミもあると思うが(実際に儲かっていると思われる自家焙煎店もたくさんあるが)、そういうお店はどうやって儲けているのか知りたい。切実に知りたい。
こんにちは。
自家焙煎のコストについての記事おもしろかったです。
そこで、最近私が購入した焙煎機を紹介します。
USAでトップシェアのBehmor1600が最近plusというバージョンアップをしましたが、電源仕様が日本国内正式のものが出ています。
1回の焙煎が450g~550gくらい(豆により)できます。
大きさは小さめの電子レンジくらいですが、直火式の焙煎機なので、かなり完成度が高い豆ができますよ。
ジェネカフェを以前使ってましたが、ジェネカフェは一般家庭の個人レベル用に対して、Behmor1600plusは珈琲専門店で店内で焙煎できる小型の機械としては、今のところよいと思います。
値段は本体が8万円弱ですが、専用の電源コンセント(100V 20A)が必要なので、電気工事が3万円~4万円くらいかかるので、合わせて12万円くらいで実現しますね。
自動の焙煎コースプログラムが5つ入ってますが、すべて自分でマニュアル制御できるので、豆と焙煎のやりかたでその店のオリジナル焙煎豆ができるとおもいます。
大きなプロ用焙煎機を大金をかけて導入するより、1回500gくらいの機械を生産量を考えて複数台導入する方がいい場合があるのではないかと思います。
たとえば、1日コーヒーが100杯売れるお店でしたら、1杯15gとして1日に1500g使います。であれば、Behmor1600plusでしたら4回焙煎すると1日分となります。ブレンド用や、少量焙煎豆販売もあるのでしたら、2台導入していただければいいのかなと。
Behmor1600plusは並行輸入の機械もありますが、これは電源仕様がUSAのままなので、日本国内の電源では、ちゃんとした焙煎はできません。
下記ページで案内されてます。
coffee.truehappy.biz
そのだ様こんにちは。
貴重な情報をありがとうございました。
不勉強でその焙煎機のことは知りませんでしたが、調べてみたいと思います。