あらかじめお断りしておきます
あらかじめお断りしておくが、ここに出てくる「お茶」の概念は一般的に「お茶がわり」と聞いてイメージするような意味での普段飲みのお茶を意味している。お茶にもいろいろあってだな、とか、そのお茶の飲みかたはおかしい、とか、いろんなツッコミがあろうかと思うが、今回は漬物をお茶うけにして土間で井戸端会議をする感じのお茶であるので、まずはそこをご理解いただきたい。
豆の持つ成分をしっかりカップに落としたいと思うとコーヒーは濃くなる
コーヒーの風味をしっかりとカップに落とす、というのは非常に困難で高度な技術を必要とする。世界中で、コーヒーに関する仕事をする人が、皆、悩んでいることのひとつだろう。
エスプレッソという手法があるが、機械的に圧力をかけてお湯を通し、コーヒーの成分を根こそぎカップへ落そうというなんとも荒っぽい話である。その圧力たるや9気圧というのだから、もしダイバーズウォッチがコーヒーの粉の中に紛れ込んだら、あぶなく壊れてしまうような圧力だ。そしてポタポタと落ちてきたコーヒー(エスプレッソ)は小さなデミタスカップにちょっとだけ入っているという、まるでコーヒーの濃縮液のようである。上手に抽出できたエスプレッソは、なるほど焙煎したコーヒー豆をギュっと絞ったらこういう果汁になるだろうと思わせるような液体になる。
JHDC(ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ)のジャッジをやっているときに、コーヒーの成分をあまりにもカップに抽出しようとしすぎたか、かなり濃いものを提出する競技者がけっこういらっしゃった。もちろんリハーサルで粉量や挽き目などの条件は決定してから競技に臨むわけで、この濃度で良し、と思って提出しているということになる(まれに「間違って」濃くなっちゃった人もいるだろうけど、まあそれはレアなケースだと思う)。一般的に、コーヒーの風味を全てカップへ置いてこようと思ったら、あらゆる条件がどうしたって濃くなる方向に進んでいってしまう不可抗力が働くのは否めない。濃度が高いほうが、様々な風味の要素を感じやすいからだ(コップ一杯の水に塩をひとつまみ落としたものと、大さじ一杯落としたものは、どっちがショッパイかと考えると、そうなる)。そしてその最たるところがエスプレッソになってくるのではないのかなと思うわけである。
薄いコーヒーを飲みたい時もある
よく、デスクワークをしている時にコーヒーを飲みながらやるのだが、そのときのコーヒーは、僕は薄いのが好みである。あるいはご飯を食べてるときにもよくコーヒーを飲むのだが、そういうときも薄いコーヒーがいい感じだ。いま、電車の中でブログを書いているのだが、こういう作業のときもコーヒーは薄いほうがいいなあと思うし、実際に薄めのロングブラックをタンブラーに詰めて持ってきている。まあ、どのシーンでもお茶でもいいのだが、コーヒーを飲みたいというときはやっぱりコーヒーがいい。でもいつも飲むような濃いのはちょっと合わないな、と思う時ああるという話だ。
要するに、濃くないコーヒーを所望するシーンというのが誰にでもあるだろうと思うのだ。そのシーンというのはその人それぞれだけれども。
じゃあ薄いコーヒーを淹れてみましょう
僕のいつものレシピは中挽きで25g、沸騰したお湯を使って2分半で300㏄淹れるってのなんだけど、これをどうしたらいいでしょうか。
粉量を減らす? 湯温を下げる? 時間短縮? 500㏄くらい出しちゃう? どれもこれも濃度としては薄くはなるのだけれども、自分的に「心地よく」薄くなるとは限らない。実際、僕もいろいろやってみて、上記の方法では心地よく薄くならなかった。まずもって、メッシュを変えるとか湯温を調整するとかいうのが自分用の場合面倒臭いので却下である。
サっと淹れられて、なおかつ心地よく薄くなったコーヒーを飲みたい、淹れたいのである。
ホゼ的「薄いコーヒー」のレシピ
それでは僕的に心地よく薄くなるレシピをご紹介します。
レシピ
浅煎り~中浅煎りの中挽きのコーヒーで粉量25g、沸騰したお湯、時間は2分、出来上がりで300㏄。
抽出手順(浅煎りの場合)
普通にドリッパーにペーパーをセットして普通に粉を入れて普通に蒸らし始めます。しかし蒸らし時間が長いです。1分ほど蒸らします。そして蒸らしが終わったらゆっくり抽出していきます。浅煎りの場合、なかなか粉が湯を吸ってる感じがないと思うのですが、最初の数十グラムが落ちるまではとにかく湯を含ませるような感じで注ぎます。これ以上吸わないだろうなあという感じになっても、ゆっくり湯をかけていきます。それでも浅煎りだとスタートから2分もすると、100~150㏄くらい出てると思います。そこで、抽出は終了です。あとは、300㏄になるまで加水します。
かなり薄いのができるんだけど、これがまあまさにお茶代わり、という感じなのね。
最初に蒸らしをしっかりやってあげることで、風味そのものは濃さの割に感じることができる。だけど濃さは喫茶店のアメリカンどころじゃない薄さ。
このまんま使ってもらってもいいし、それぞれ条件を変えつついろいろ試して、自分の好みを探ってみるといいと思うよ。
おまけ
以前、某濃度計メーカーさんの技術の方とお話しているときに、お茶の話題で、お茶は薄すぎてコーヒーのようには計れないという話を聞いたのね。確かに、普通に家庭で飲むお茶の濃度は薄いよね、コーヒーに比べるとかなり薄い気がする。でも、日本人ってそのお茶をがぶがぶ飲んで育ったわけでしょう、体の中にそういう濃度の飲み物を飲む土壌があるわけで、コーヒーをそういう飲み方したいという可能性もあるんじゃないか、SSEでもそういう提案がお客様にできるんじゃないか、とひらめいたわけ。
ところがよく考えたら、そもそも自分が薄いコーヒーを欲しているときがけっこう頻繁にあるわけで、お客様に提案じゃなくてまず自分に提案だと思ったのね。じゃあ薄くするときにどうすればいいか、自分なりに満足のいく薄め方はどういうやり方か、というのを考えて、今回のレシピになったという。灯台下暗しとはまさにこのこと。
この「薄いコーヒー」なんだけど、いつもこのレシピで飲むっていうことじゃないから、それは邪道だと言われればそれまでなんだけど、使いどころによってはなかなか手放せなくなるんで、ぜひ試してみてください。
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