ハンドピック続きで。
品質向上、財産減少のハンドピック
ハンドピックすると、品質の悪いものが除かれるため、品質は向上します。・・・というのは、誰が聞いても当たり前の話である。
しかし、品質が悪いものとはいえ、重さで売り買いされるコーヒー豆だから財産を捨てているのと一緒である。生産者なら「せっかく収穫したのに」、焙煎者なら「せっかく焼いたのに」、というところだろうか。
品質を向上させるためにはどうしても必要であるのだが、そのために財産を捨てていると考えると、何か釈然としないものがある。
その釈然としない気持ちを分析して、きちんと数字で見える化して、スッキリしてみようというのがこの記事の趣旨である。
(と言って、スッキリすればいいのだが、ガックシする可能性もあるので最後まで書いてみないとわからんなこれ)
ハンドピックの経済学
ハンドピックすることで、どのくらいの財産を捨てることになるのか。消費国、というか身近なコーヒー屋さんを舞台にお金の流れを軸に見ていきたいと思う。
コーヒー屋さんが生豆をキロ当たり1739円で買ってきたとする。
(参考)ワイルド珈琲 エチオピア/シダモG-1ウォッシュド・グジ(生豆)【ニュークロップ】
本題とは関係ないけどエチオピアも値上がりしてるなあ・・・
キロ1739円て・・・
さて、ハンドピックするとどのくらい財産が減っていくのだろうか。
エチオピアのG1であるが、前回の記事でも書いたように、300g中の欠点豆が3粒以内ということになっている。100gあたり1粒ということになる。
SSEにあるエチオピア(もちろんG1である)でグラムと粒数の関係を実測したところ、100gで700粒ほどとなった。非常に疲れた。
で、先ほどの基準で言えば700粒中、1粒の欠点豆が許されるということになるわけなのだが、果たして、どのくらい欠点豆が混じっているのだろうか。
がんばって100g、と思ったのだが、サンプルとしては20gで十分だろうということで(あるいは20gほどのところで心が折れて)、これが仕分けした結果である。
全体で145粒に対し、生豆の状態ですぐ判別できた欠点豆が9粒。割合で言えば6%である。
本来、300g(2100粒)に3粒の割合で混入が許されているG1グレードであるが、まあ実際はこんなもんある。エチオピアでそんなキレイな生豆は見たことないので、そんなにガックシしたりはしないのである。
ところで、6%が欠点豆ということは、生豆を買ったときに6%は捨てるために買っているということである。1㎏当たり1739円のうち104円である。このワイルド珈琲で販売しているエチオピアは30kg袋なので、30倍して3120円である。普通、麻袋入りのコーヒー豆は60kgなので、もしそうだとしたら6240円にもなる。麻袋一袋の生豆を買うときに、6千円分はゴミ箱行きだと思うと泣けてくる。
結論その1「最上級グレードでも、60kg袋中6千円分は捨てることになることもある」
さて、コーヒーの「末端価格」の話をしよう。
コーヒーを一杯淹れるというときに、お店にもよるがここでは15gを使うとする。15gで一杯点てのコーヒーが500円だとしよう。果たして、捨てた生豆で何杯分のコーヒーが淹れられるのだろうか。
さきほど、20g中の欠点豆が、数で言えば9粒、重量比で6%であったことを確認した。ところでエチオピアの生豆が10gで70粒なので、一杯分15gには約100粒必要ということになる。
さて、この条件で計算してみると・・・
一般的な60kg袋で考えてみると、焙煎することで約15%ほどの重量ロスとなるので、約51キロの焙煎豆となる。60kg中の欠点豆は6%であるが、比率は焙煎しても変わらないので、51kg中の6%を計算して約3kgだとわかる(と書いて泣きそうになった。焼き豆で3キロも捨てるのか・・・)ので、200杯分となる。
もしドリップコーヒーを1杯500円で売っている店だとしたらなんと・・・10万円分・・・
結論その2「ハンドピックしたら10万円の売り上げがフイになった、はあり得る」
人件費やピッカーのストレスの問題
もし、半分も欠点豆が混じってたらどうだろうか。目の前に10キロの豆があって、仕分けしたら5キロが健康な豆、5キロが欠点豆だとしたら。
僕ならどんなに安くとも、どんなに美味しくとも、その豆は残念ながら使うことはないだろうね。なにしろ手間賃というよりもそんなにハンドピックするのがイヤだからだ。たぶんイライラしてハンドピックのトレイをひっくり返したくなる。
それでは、欠点豆がどのくらいの割合だと妥当なのか。
僕の経験では、5%を境にハンドピックの労力がハネ上がるように思う。20粒見て1粒入っている、という状態である。これ以上あると、どうしても手を動かす回数が増えてしまいハンドピックの速度が上がらない。ひたすら拾って捨てるを繰り返すため、手の動き以上の速度が出せなくなるのだ。
5%を下回るようであれば、拾わず見てる時間が長くなり、目で見た分の中で手を動かす頻度が下がるため、どんどん速度が上がっていく。
もし、3%を割っているのであれば、それは大変に楽ができる生豆である。ざーっと見て、拾うべきものがいくつか見つかるのでそれをピックすればよい、という状態で、手を動かす時間がかなり減ってくる。
逆に10%も欠点豆があったらどうなるかというと、もう手がずーっと動いているので、いつまでも終わらないんじゃないかという気がしてくる。ほかにもやらなければならないことがあるのに全然終わらず泣きたくなるので、こういう豆は使いたくないわけだ。
というわけで、5%の壁である。
欠点豆をハンドピックして重量が5%以上減っているとしたら、よほど美味しいとか、なにかないと買うのをためらうレベルである。できれば、4%以下というものを使いたい(と言ってる割に、SSEのエチオピアは6%もあったわけでどうもお恥ずかしい)。
小売店で品質向上による値上げはどのくらいまで許されるか
たぶん無理。そんなことができたという話は聞いたことがない。
逆にハンドピックしなくしたから値下げした、という話も聞いたことがない。
おそらく、ハンドピックそのものは店頭価格に影響しない(できない)。
理由を考えればいろいろ出てくるが、ここではそれを議論する必要がないのでカツアイ。
ハンドピック前提で生豆の値段を考える
そろそろまとめなのだが、前段までのことを総合するに、
・ハンドピックすると財産が減る
・減った生豆のぶんの売り上げが機会損失となる
・ハンドピックそのものにコストがかかる
・ハンドピックしたことで価格を上げることは難しい
となるわけで、非常にハンドピックの旗色は悪い。ほとんど負け戦である。
しかしやらないわけにはいかない、となると、答えはこれしかない。
「コーヒー豆の値段ということを考えるときに、ハンドピックを前提として考えるといい」
なーにを当たり前のことを、とおっしゃる方もいらっしゃると思うので、そういう人はこれより先は読まずにそっとブラウザを閉じてください。
そうでない方は、もう少しお付き合いを。
ハンドピックするにも、拾いやすい欠点豆と、そうでないのとある。
生豆でないと見にくいもの、焼き豆にしないとわからないもの、どっちでも見つかるもの、どっちにしても見つけにくいもの、の4種類だ。
生で見つけやすいのは、コッコや未脱穀。
焼き豆にするとわかりやすいのがクエーカー。
どっちでも割れ欠け貝殻は見つけやすい。
どっちでもポツっと食われた虫食い、ポテト、リオは見つけにくい。
これらに割り増し料金をつけてあげる。
例えば、
コッコ多め10%増し
クエーカー多め7%増し
割れ欠け貝殻多め3%増し
虫食い、ポテト、リオ多め10%増し
さらに「5%の壁」を超えたらさらに10%増しにする。
というようにすると、その生豆のポテンシャル(香味的な意味合い)からして適正な価格かどうかというのがわかる。
例えばさきほどのワイルド珈琲の1739円のエチオピアでは、割れ豆や欠け豆が多め、虫食いもありということで13%増し、さらに「5%の壁」を越えているので10%増しで合計23%増しにして2139円になる。
生豆の価格は、それ単体にあらず、後々の目減り分と手間を加味すると実質の価格としてわかりやすい、というわけ。
おまけ
実際にハンドピックをするとわかるのだが、ハンドピックというのはけっこう精神的に削られるものである。できればやりたくないので、欠点豆が少ない的な意味合いで良い生豆を買うに限る、という結論になる。
しかしながら、焙煎屋さんというのは頭が悪いというかなんというか、よくこういう話を聞く。
「これ欠点がけっこう多いんだけど美味しいから(購入してしまったのは)しょうがないよね」
僕も同じようについ、美味しいと欠点が多くても購入してしまうようなところがある。美味しいは正義ではあるのだが、買って、後々面倒なのは自分なんだが・・・
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