連載3話目である。前回までにあなたはカフェを無事にスタートすることができた。コンセプトもしっかりしている。そして、最終話は、そのお店を継続していくための話である。
お店が開店したら
それはゴールではなくスタートにすぎない。もしかしたらスタートのための準備運動かもしれない。または、それについて練習し始めたところなのかもしれない。
カフェを始めたら、あなたはなるべく長く、楽しく、そして自分らしくそれを続けていかなければならない、アーティストやアスリ-トのようなものなのだ。
お店が開店したら、なんでもがむしゃらに貪欲にやっていこうと思っているかもしれないが、ちょっと考え直してほしい。何がやれるか、なにをやろうかと考えるのは2番目で、第一に考えたほうがいいことは、その逆のことなのだ。
なにをやらないか、はあなたを際立たせる
もちろん、なにをやるかというのは大変に重要なのである。なにをやるかというのが無ければ、そもそもカフェなど始めていないはずであるからである。
やりたいこと、やるべきこと、やったほうがいいこと、やろうとしていること、やったら楽しそうなこと、そりゃもういろいろと前進すべきことがたくさんあって、毎日目が回るような忙しさになる、はずである(なるといいなあ・・・)。
でも、時間があれば、アイデアがあれば、それっとばかりにあれもこれもとやりたくなるのである(開店当初は思うように売り上げが伸びず、意外と時間があったりするから余計に、かなあ・・・)。
でも、あなたがかかえるものが増えれば増えるほど、あなたらしさが無くなっていきはしないか。あなたのお店のフォーカスがぼんやりとしていってはしないだろうか。
「なにをやろうか」よりも「なにをやらないか」を考える
あなたがやらないことはなんだろうか。
例えば、メニュー的なもの。
「モーニングセットもランチセットも、流行のスイーツもやりません」
「アルコールの販売はしない」
「手作りのものしか出さない」
例えば、お客さんについて。
「団体さまはご遠慮願います」
「私語はつつしんでください」
「パソコン禁止」
例えば、スタッフが。
「カフェに情熱のあるスタッフだけ」
「趣味や勉強など個人の時間は仕事よりも大事」
「バリスタは抽出を、ケーキはパティシエが専門にやります」
例えば、お店の運営の仕方。
「貸し切りはできません」
「クーポンや割引券、メンバーズカードなどはありません」
「雑誌やテレビの取材はお断り」
お店の売り上げは、次の要素で決まる。
(その日の来客数(席数×回転数))×(客単価)=その日の売り上げ
それはわかっている。
どうしても、来客数は増やしたいし、席数が決まっている以上は回転数を稼ぎたいし、客単価は上げたくなる。
そこでどうなるかというと、そのために「あれもこれもやりたくなる」のである。
やりたくなってやってしまうとどうなるか。
上記の例で言えば・・・
「モーニングやランチのお得なセット、流行のスイーツを揃え、団体様歓迎でうるさくしても大丈夫、パソコンなどを使って仕事もしてください。スタッフは特にどういう人ということはなく、個人の都合よりも仕事に穴を空けないことが優先され、誰でも調理などができるようマニュアル化されてます。お店は貸し切りやパーティでお使いいただけますし、いつもクーポンや割引でお安くお召し上がりいただけます。テレビなど取材は大歓迎、たくさんの人に知ってもらってたくさんの人に来てもらいたいです」
となるわけで、これではファミリーレストランかチェーンのカフェダイニングか何かのようである。あなたが誰で、あなたの店がどんな雰囲気で、どんなお客さんが来てくれて、どういう方向性なのかというのがちっともわからない。とても個人がやるカフェの説明にはならないだろう。
というわけで、自らに律する制限が多ければ多いほど、あなたの店はあなたらしくなるということがご理解いただけたであろうか。
ここだけは譲れない、といういくつかの点を死守する
寓話である。
黄色いクマを相手に瓶入りのハチミツを売る商売を考えたとする。高級な、希少なハチミツを瓶に入れ、棚に並べて、クマが来るのを待つわけである。
しかしなかなか来ない。黄色いクマはハチミツが大好きなのだが、瓶で買うほどではないらしい。ツボに入れて店内舐められるよと言えば、クマが容易に来てくれることはわかっている。でもウチは瓶入りのハチミツ屋である。客席が無い。そこで客席を作る。店内でクマに舐めさせるような商売に少し広げるわけである。
そして、クマがハチミツを舐めに来るようになってしばらくして、クマだけではどうにも儲けが少ないことがわかる。ピンクのブタがいるのだがどうやらドングリを店内で提供すればそのブタも集客できそうだ。売り上げアップのために、今度はメニューにドングリを加えることにする。
店内はいつもクマとブタがめいめいに好物を食べる場所となった。しかしまだ売り上げが足りないような気がする。もうちょっと儲けようと、店内では飛び跳ねてもいいよ、ということにした。オレンジのトラが常連客の仲間入りとなった。いろんなお客さんがいるので、入りやすくなったのか説教が好きなブルーのロバも常連となった。
トラは騒がしくピョンピョンと飛び跳ねる。ロバは誰かれかまわず説教をする。雰囲気に違和感を感じるようになった黄色いクマはハチミツを舐めに来るのをやめてしまった。
棚には、瓶詰めの高級ハチミツが並んでいる。かつてはこの瓶入りのハチミツを売ろうと思ってお店を作ったのだ。いまや騒がしいトラや迷惑もののロバが幅をきかせ、ハチミツを好むクマが来ることがなくなったお店の棚には、ホコリをかぶったハチミツの瓶がひっそりと並んでいる・・・
教訓:瓶入りのハチミツを売る店を作ったならば、瓶入りのハチミツが売るために営業するべきであって、瓶入りのハチミツが売れるようになるんでなければ、それが何であれ、やめとけ
でもヨソはこうやって売れてるよ!の罠
ヨソはヨソ、ウチはウチである。
ヨソがどうやって売り上げを立てているか、そういうことはどうでもいいのである。ウチはウチなのである。どうせ放っておいても、10年もたてばあなたが「ヨソ」と言ってる店の9割は無くなるのである(廃業してしまう)。いまヨソがどんなに魅力的に見える手でお金を稼いでいるとしても、それは遅かれ早かれ廃業してしまう店のやっていることなのだ、と考えれば、たいして参考になることがあるとは思えないだろう?
はっきり言って、自分の店も10年もつかどうかわからないのである。確率で言えばかなり分の悪い勝負である。言い換えればどうせ負け戦なのだから、自分のポリシーをキッチリを守り切って思う存分戦ったほうが気が済むと思うのだ。
そういう思い切りが、お店のファンを作るのではなかろうか。
おしまいに
個人が小さなカフェを始めるということは、できることが非常に少ないということである。
あなたの力は思ったよりも全然小さくて、その想いが届く人はびっくりするほど少ない。それが個人店である。
だからこそ、その力を注ぐべきは限られたいくつかのことだけにして、その力を集中して発揮したいし、その想いが届く人には思い切り想いをぶつけてあげたいのである。
いろんなことをやりたい、たくさんの人に届けたい、というのは、小さなカフェを始めるときには遠い遠い夢物語であり、いつ実現できるともわからないことなのだ。そこに向かって走り出してしまうのは、イカロスが太陽に近づこうとしたあまり地上に落下してしまうようなものなのだ。
あなたが、あなたらしくお店を作り、そしてあなたらしくお店を継続していけることを。
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