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メンタルアカウンティング – カフェと競合するもの

カフェを開業したいあなたは競合に勝つことを考えるけど・・・?

あなたはカフェを開業したいと思っている。貯金をはたき、借入もして、大きな挑戦をしようとしている。そしていまその挑戦の計画を立てている途中なのだが、心配なのは果たしてそのカフェにはお客さんが来てくれるだろうかということである。

心配のタネを消すように計画の中でチェックをし始める。

提供するコーヒーやスイーツには自信がある。このへんにはチェーンのあんまり美味しくない店しか無いんだ。店舗は人の行きかう通りに面した路面店。外観も内装もこの街ではないようなしっかり仕上げにしよう。自分は接客も大丈夫だろうと思うし、スタッフはカフェで働いた経験が豊富な子を雇える予定だ。値段は相場程度とし、コストをかけて品質はワンランク上のものを提供しよう。そうだ、このあたりではまだ珍しいメニューを取り入れるのもいいな。

どうだ、これならなんとかなりそうじゃないか。

というようなことは、カフェを開業しようと思ったら誰しも考えるようなことではなかろうか。

ほかの店より良いものを、お安い値段で、良いサービスで提供すれば。ほかの店に無いものを、良い立地で提供できれば。・・・そこに勝機がある。

こう考えてしまいがちではないか。

しかし、そこには違う視点がある。そしてその別の視点から見ると、そのカフェにお客さんが来てくれるかどうか、そして来てくれたお客さんが喜んでくれるかどうか、さらにはリピーターになってくれるかどうかを占うことができるのである。

その便利な視点とは、タイトルに書いてある「メンタルアカウンティング」である。

メンタルアカウンティングとは

メンタルアカウンティングとは、日本語では心理会計とも言うが、2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授の提唱している経済の概念である。※ノーベル経済学賞というものは無い!という識者のご指摘は甘んじて受けますがわかりやすいのでこの表記としています悪しからず

意識はつねに、複数の物事をまとめて「かたまり」にし、複雑な世界を少しだけ扱いやすいものに変えようとする。自分の使うお金を1ドルずつ数えて判断するのではなく、例えばホテルの宿泊費など、個々の使い道カテゴリーに分けて考える

出典 心の会計:人はなぜお金を非合理的に使うのか / wired.jp

簡単に言うと、5万円で高級な万年筆を買おうと思った時(万年筆に5万円を出すのはなかなか勇気がいる)、貸したことを忘れていた5万円が手元にもどってきていたら、これはチャンスと買うかも知れない。しかし、各種税金の支払い月でいつもより多くお金が出ていったときには、諦めるだろう、ということだ。万年筆の値段は5万円であり、それを買おうと思った時に自分の手元からは5万円が消えるということは、どちらの状況でも変わらないのにだ。いずれ5万円はなにかに消えるだろう。それは食費かも知れないし、交通費かも知れない。やっぱり万年筆を買うかも知れない。しかし、あぶく銭のような5万円と、虎の子の5万円では、知らず知らずに使い道を変えてしまっているということで、それをメンタルアカウンティングと言う。
セイラー教授は、行動経済学という分野の権威であるわけなのだが、ぜひ「セイラー教授の行動経済学入門」など著書を読んでいただきたい。カフェを開業しようとしている人には(いやすでに経営なされてる皆さんにも)役立つヒントが山盛りである。

カフェに来るお客さんのメンタルアカウンティングを推理する

それでは、冒頭の問題に戻ろう。あなたが計画しているカフェに、果たしてお客さんは来るのだろうか、という問題だ。メンタルアカウンティングを使って、それを解決しよう。
まず大事なのは、メンタルアカウンティングを含む行動経済学というのは、ミクロ経済学の領域であるということだ。つまり、個人個人の問題を扱う概念であって、街全体の、あるいはカフェ利用者全体の行動について共通して言えるということではない。だから、一人ひとりの行動について、一つひとつ考える必要がある。
例えばその街の珈山琲子さん(26歳、会社員)はどういう行動をするか、と考えるわけである。彼女は今日はお休みで、街の中心部まで買い物に出かけて、仕事で着る洋服と、お出かけ用にアクセサリーなどをぶらぶらと見ようと思っている。お気に入りの店をいくつかまわって、その後は書店に寄ってファッション誌と料理の本、あとは資格試験用の参考書を買いたいと考えている。時間がかかるので、途中で軽くなにか食べたいのだけどまだ何か決めてない。そして夕方にはデパ地下で、明日は出勤なのでお弁当の材料も買って、そして家でのんびりしようと思っている。
さて、この中で彼女はいくつかのメンタルアカウンティングを持って出かけようとしていることがお分かりだろうか。ひとつは、仕事関係の出費である。洋服、手帳など。次に趣味や余暇にあたるアクセサリーやファッション誌など。そして生活費のデパ地下、料理の本やどうせ食べなきゃならないランチもそれに含まれそうだ。この三つの心理会計の中で、あなたの計画しているカフェはどの財布から支払われるものに相当するだろうか、と考えるのである。もしオシャレでイマドキのスイーツが人気になるようなカフェなら、趣味や余暇から支払われる。彼女は、ファッション誌を買うのをやめてカフェに寄るかも知れない。趣味や余暇のお金は毎月このくらいと決めている、しっかり者だからだ。もし一人で入りやすいセルフ系のカフェなら、簡単なものを食べながら彼女は買った参考書を開いて少し読んでみようと考えるかも知れない。しかし彼女は洋服を買わなかった。資格が取れて収入が上がるまで、新しい仕事用の服はガマンしようかと考えたのだ。ところで、カフェというのは、生活費からは払われにくいので、三つ目の財布からはなかなか支払われにくい。三つ目の財布かはら払われないと考えよう。
さあ、あなたが計画するカフェは珈山琲子さんのどの財布から支払われますか?という話である。言い換えれば、あなたのカフェと競合するものは、アクセサリーやファッション誌ですか?それとも仕事用の洋服ですか?ということになる。
これを街全員に当てはめて考えるのはものっすごく大変なので、モデルとしていくつかのパターンを考える。霧万蛇路男(20歳、学生)とか青山某(42歳、ジャマイカ特産品輸入業)とか、カフェに来そうな人たちをいくつかのパターンに当てはめる。そして、それぞれのパターンに含まれる人がおおよそどういう行動(経済的な行動)をしているかを考えて、競合となるものを抽出し、それらと比べてあなたの計画するカフェに来るためにお金を財布(メンタルアカウンティング)から出してくれるだろうかどうだろうかと考えるのである。
しっかりと個別のパターンでメンタルアカウンティングを推理できれば、何をどうすればお客さんが「ほかのことにお金を使わずこのカフェでお金を使って良かった、満足感があった」と考えるかがおよそ見当がつくはずだ。

美容室に行くタイミングを少し遅らせてカフェに来てよと言えるかどうか

メンタルアカウンティングの考え方をすれば、あなたの計画するカフェは街のほかのカフェ、つまり競合店と比較してもしょうがないことがわかる。なぜなら「カフェ」という財布を持っている人はそうそう居ないからだ。ここまでで説明した通り、使えるお金が有限である限り、カフェにお金を使うときには別の何かに使わないという選択肢が常に付きまとうのである。だから、「どのカフェに行こうかな」という人はカフェという財布を持っている人で、そしてそれは少数派で、たいていの場合には、カフェに行こうかなというのは違う何かに散財するのをやめてカフェに来るのである。だから、ほかのカフェよりどうこう、ということよりも、ほかの何かをあきらめさせるだけの何かがある、ということが、お客さんを呼ぶと考えたほうがいい。
いいものを提供していれば、または、よそよりもお値打ちに提供していれば、きっとお客さんはわかってくれる来てくれる、というのはマヤカシだ。それは競合に同業他店を想定しているからだ。
実際にそんなことは言わなくて良いのだが、オシャレなカフェを作ったら、オシャレなお客さんに「あなたのオシャレな生活のためには美容室って絶対欠かせないと思うんだけど、そのオシャレな生活をもっと豊かにするために、美容室に行くタイミングを少~し遅らせて浮いたお金でウチのカフェに来てよ、きっと損はさせないから」と言えるかどうかなのだ。つまるところ、オシャレ費というメンタルアカウンティングからお金を出してくれ、という考え方ができるかどうか。そういう考え方でお店を作ることができれば、
「競合他店の動向や値段や商品構成やその他もろもろは関係ない」
ということなのだ。
パッとわかりにくい概念なんだけど、これはすごく強力にお客さんを分析できる概念で、これから開業したい人や、いますでにお店を経営している人に、参考になればと思う。


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