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神の見えざる手 – 1杯のコーヒーから生産者にもっとお金が渡ると何が起きるか

1杯のコーヒーから生産者にもっとお金が渡るとどうなるか、という話をすごく簡単なモデルを使って考えてみたい。

消費国である日本で、コーヒーを1杯買うときに500円を支払うとしよう。その中で生産者が手にする金額はおよそ6円になる。という話を聞いたので、そこから話を進めていく(*1)。

消費国で500円の値が付くコーヒー1杯ぶんのコーヒー豆を、生産者ががんばって作って対価として得るのが6円、というと結構衝撃的な気がするけど、じゃあ1万円のナイキの靴を作る中国の工員の賃金がいくらなのかとか、銀座の宝飾店で売ってる指輪についてるダイヤを掘る南アの作業員の日給がいくらなのかとか、まあそういう事例はいくらもある話である。

では、本題に入ろう。

1杯のコーヒーから生産者にもっとお金が渡るということを、コーヒー生産者が販売する生豆の消費国での価格が上昇すると言い換える。なので、コーヒー生産者が販売する生豆の消費国での価格が上昇するとどうなるか、を考えることにする。また、話を簡単にするために、生産者の国内に限定した影響を考える。生産者の国内に限定した影響を考えるだけでも、十分にこの記事で言いたいことは言えるので、良しとする。モデルとしては、コーヒーを生産するが国内では消費しない国を考える。コーヒーを輸出する先は日本だけである。

結論から言うと、コーヒー生産者が販売する生豆の価格が上昇しても、生産者がリッチになるわけではない。パラドクスのように聞こえるが、市場原理を考えるとそういう帰結になる。

コーヒーの生豆市場で、消費国でコーヒーの需要が高まるなど外的な要因で生豆の価格が上昇するとどうなるか。毎年同じ量が輸出できるという条件ではコーヒー生産市場に参入するプレイヤーが増えるので、長期的に見れば以前と同じ水準になるまで価格が下落する。それでは生産国で貨幣価値が上昇し、生豆の価格が上昇するとどうなるか。これも毎年同じ量が輸出できると考えるが、価格の上昇分は貨幣価値の上昇分と等しいので相殺されて実質的な収入増にはならない。結局、価格上昇の要因が外的でも内的でも、生産者の収入増にはつながらないという結論になる。

わかりやすく例を出す。前者では外的な価格上昇の要因があった。どういう理由かわからないが、消費国で「いままで6円払ってたところ、倍の12円出すよ。でも消費量は変わらないんだ」と言ってきた状況である。生産者はなんの苦労もなく、今年は昨年と同じだけ売って倍の収入になる(短期)。しかし来年、再来年と「そんなに儲かるならコーヒー生産しよう」と果樹園や牧畜をしていたひとたちがコーヒー生産に乗り出してくるはずである。なぜなら、それまでコーヒー生産、果樹生産、牧畜をしていた人たちはそれぞれ、「自分のやっている仕事はほかのもと同じくらいか、それよりやや儲かる」と思ってやっているわけである。どれかが圧倒的に儲かるなら、合理的に考えてみんなそれをやるはずである。だから、コーヒーの価格が急上昇したら、おなじくらい儲かるはずだった果樹栽培や牧畜をやめて、より儲かるコーヒー生産にシフトしてくる。ところが、輸出量が一定であれば、参入してくる者が多ければ多いほど、競争が激しくなる。競争は価格の下落につながるため、結局のところ値段はだんだん下がって、以前の水準並みになる。なお、この価格が下がる過程で「なんだ、やっぱり果樹のほうが儲かりそうだ」とコーヒー生産から抜けていく人も出てくるので、最終的なコーヒー生産人口と生産量と販売額は、価格上昇以前と同じ水準になる。需給のバランスが何らかの理由により崩れた場合には「神の見えざる手(*2)」が作用して一定の水準に戻るように調整されるというのが一般的な解である。

次に後者であるが、「いままで消費国が6円で買ってた生豆だが、我が国の物価の上昇にあわせて今年は倍の12円で買ってくれることになった」という状況である。つまりインフレである。需要も供給も変わっていないので、こちらはわかりやすく、実質の実入りは変わらないということになる。同じ量だけ輸出できるとなれば、入ってくるお金と使うお金のバランスが変わらないため、なにも変わらないことになる。

乱暴に言えば、コーヒー1杯分の生豆の値段は消費国(この場合は円なので日本)の貨幣価値になおして6円というのが、実際に取引される市場価値であるということである。それより高くなった場合、それが外的要因であれば、国内の産業内で調整が働くことで長期的には価格は元の水準に戻り、収入も元の水準に戻る。国内のインフレにより価格が上昇した場合には、名目の取り分は増えるが実質の取り分が増えないため、収入の水準はもとのままである。

(これが世界中の消費国と生産国の間でやりとりされるわけで、そうなるとすごく複雑な話になるので、やりません。ていうかやれません。そんなモデルを作れる気がしません)

というわけで、すごく簡略化したモデルで考えてみたら、結局生産者の取り分はそう変わるものではないということになった。でもそれでは困る。いや困ることはないが、ないのだがしかし、生産者にリッチになってもらいたいよ、というのはコーヒーに関わるひとたちの願いだろう。いつか、その答えを書けるときがくるといいなあと思う。

脚注

*1 生産国や地域その他さまざまな要因で上下するだろうが、実際にそのへんだろうなあと思う。なお出典はこちら https://note.com/yuma_lightup/n/n7666349727e9

*2 wikipediaのこちらのページをどうぞ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%AF%8C%E8%AB%96 


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