Skip to content →

勤め人ほどオイシイ仕事はない

いわゆる普通の勤め人は「報酬と引き換えに時間を販売」する人である。一日のうち何時間かを「会社に販売」することで「対価を得」ているのである。平社員でも課長でも取締役でも同じことだ。
会社の立場は強い。大抵の会社の命令は絶対だ。勤め人は勤め続ける限り、会社の命令に従うということを約束しているのと同じである。
細かい命令を挙げるとキリが無いが、それら命令の基本はこれである。
「時間をよこせ」
つまり伝票の整理をする時間を、提案書を書く時間を、来月1000万円売り上げるための時間を、プログラムを書く時間をよこせ、ということだ。
勤め人はこれを拒否できない。やれと言われて「イヤです」とは言えないのだ。つまり時間をよこせと言われて「時間は差し上げられません」とは言えないのだ。
だからやる。やらなければならない。
このように書くと勤め人はなんと悲しい職業なのか、とも思えるが、実はそうではない。
会社が求めるのは時間、というところがミソなのだ。
基本的には会社は勤め人の財産のうち「時間しか」求めないと言っても良い。つまり成果は求めていない。時間さえ差し出せば後は要求されたことを達成しようがしまいが関係ない。
「伝票の計算をしたけど検算してないや。でもやったということにしよう」
「適当にササっと提案書書いとけ」
「営業中サボってたから800万円しか売れなかった」
「プログラム書くふりしてネットオークションでもやろうかな」
全部OKである。もちろん全然成果が出なかったら怒られるかも知れない。でもそれだけだ。
報酬と引き換えに差し出した「時間」を管理するのは誰だ?勤め人その人なのだ。勤め人その人が相手に「販売した時間」をどのように処分するかの実質的な権利を持つのである。
おカネでたとえると、僕が誰かから1000円で本を買った時に、対価として支払った1000円を僕が自由にできるということなのだ。坊主丸儲けよりすごい。二重取りである。
もちろん会社はそれに対して、ちゃんと対策を講じている。つまり労働時間の管理である。
工場なら標準的な作業工程にかかる時間をはじき出し、労働時間に応じたアウトプットを求める。
営業だってSEだって総務だってなんだって同じことだ。労働時間がこのくらいなら、このくらいの量の仕事ができるはずだというアウトプットを求められる。
ならば自分の時間を自分が処分できるなんてそんなことは、僕のテキトーなデッチアゲじゃないかと思うだろうか。いやそうじゃない。
会社は、ほとんどの場合命令に従わせることができる。ある一つの命令を除いて、だ。
その命令を出せないために大抵の場合、勤め人は会社よりも立場が強い。というか会社は勤め人の処遇にすごく困ることになるのだ。
その一つの命令とは「辞めてくれないか」である。
会社は、よっぽどすごい理由を付けない限り、勤め人に「辞めてくれないか」とは言えない。法律でそうなっている。不当に解雇されたという裁判はよくあるが、不当に勤めを継続させられた、という話はあんまり聞かない。(そもそも勤めを継続したくないのなら会社に行かなければいいだけの話だ)
会社は誰かを雇うと、その人を定年まで勤めさせなければならないという約束をするようなものだ。20歳で採用したら40年間だ。会社自身が40年間ちゃんと存続できるかどうかわからないのに、勤めを継続するという約束は40年間分しなければならない。基本的にはそうなっている。
つまり、サボろうが怠けようが、勤め人は定年まで会社にいられるのである。少なくとも定年までで億の単位の報酬を得るという約束をもらえるのである。
研究職で採用したが使えないんで営業に回したが売れないんで経理に回したが計算間違えるんで工場に回したら不良品つくりやがって倉庫に回したら在庫数間違えた、あいつにもうやらせる仕事なんか無いよ。
という人が定年まで倉庫番をやっていたなんていう話はいくらもある。
会社としてはどの段階でも「よっぽどの理由」がない限り解雇できないのである。
そう、会社からの命令、伝票を整理したり売り上げを上げたりという命令は、その命令に対する時間だけ差し出せば結果は求められないのだ。そして会社はその勤め人の処遇をいろいろ変えたりと対策を講じながら延々と解雇できずに定年まで給料を払い続けるのだ。
素晴らしい!
週に5日間、仕事をするかどうかは未定だがとにかく一日8時間を、定年まで約束された報酬を得る対価として提供する。
そして移動カフェでコーヒー1杯を数百円で売るときに、僕は「継続性が約束されていない報酬」を得る。数百円を得るために費やした時間は、数百円を得るために費やした時間にほかならない。それ以上でもそれ以下でもない。
何がいい悪いではないし、報酬に貴賎があるわけでもない。勤め人はオイシイ、それだけだ。
しかし時間と報酬の二重取りができない世界へ僕は行こうとしている。


Published in 雑記

Comments

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です