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コーヒー豆のストーリー

サンシャインステイトエスプレッソは移動型のグルメエスプレッソバーである。
メインとなる販売品目はエスプレッソ及びエスプレッソベースのドリンクである。
そしてそのエスプレッソの素となるコーヒー豆はシングルオリジン(単一産地)のスペシャルティグレードのものを週替わりで使用している。
今週の豆は何を使うか、というのは悩みどころである。良い豆を飲んでもらいたいというのはもちろんであるが、いつも同じベクトルの豆ではつまらないので、前回とは性格の違う豆を使いたいし、天気や人出の予想から売れそうなメニューにマッチする豆を使おうと考え、商売であるからしてCOEなど高価な豆を利益を削って売る日もあれば、美味しいけど安い豆を探して売って利益を確保しなきゃなーというときもある。いろんな要素がからみあってその週の豆を決定しているわけだ。
先週土曜のいつもの牛久駅西口出店、日曜の牛久駅東口イベント出店とメキシコの豆を使用した。
生産国:メキシコ
生産地:チアバス州
生産者:マヤビニック協同組合
認証:フェアトレード
特徴:慶応大学フェアトレードプロジェクトが支援、有機栽培豆
店頭のブラックボードにもこのような内容を書き、さらに「マヤ系先住民を応援しています」とアピールした。
足を止めて説明書きを読む人、マヤビニックの話に耳を傾けてくれる人、生産者を応援したいからと購入してくれる人、更には「がんばってください」と声をかけてくれる人。ストーリーがあり、興味を引きやすい豆である。だから、売りやすい。
こういう豆は、お客さんのスイッチがON/OFFでわかりやすい。フェアトレードや生産地の応援という要素にスイッチが入る人は、コーヒーが好きだろうが嫌いだろうがスイッチが入る。
この豆は、カッピングでは特別に高得点というわけではない(スペシャルティグレードであることには間違いないが)。
やはり、COE入賞豆などと比較すると香味が弱いし、クリーンカップも劣ると思う。それでも、ストーリーがあれば興味を引くし、クオリティに対して少々高値でも購入する動機付けになる。そして何よりも、社会貢献しているのだという気分で飲めば、実際に舌で感じるよりも美味しく感じるのは間違いないだろう。
今までサンシャインステイトエスプレッソでは、さまざまな生産地、さまざまな特徴、さまざまな認証を取った豆を扱ってきた。約半年の間に、15種類ほど使っただろうか。その中には、今回のメキシコのようにお客さんにウケが良かったものもあったし、全然興味を引けなかったものもあった。
例えば、コスタリカの豆だ。
生産国:コスタリカ
生産地:タラス地区
マイクロミル:ラ・カンデリージャ
認証:特に無し
特徴:環境汚染を防ぐためフーリーウォッシュドを廃止。コスタリカは品質向上のためアラビカ以外の植え付けを禁止、など
この豆はとても美味しく、カッピング時にも良い点を付けた。しかし、コスタリカという国自体が日本ではポピュラーではなく、コスタリカの豆も日本での消費量が多くないためメジャーな産地とは言えない。そしてお客さんに説明するときに、困ってしまった。国を上げて環境保護に力を入れているのだが、レインフォレストアライアンス等の認証を取っているわけでもないし、アラビカ以外の植え付けが禁止といってもブランド産地でもない。結局、お客さんにこの豆を飲むのと同時にイメージしてもらいたいビジョンが無いまま販売当日となってしまった。
もちろん、コーヒーとして美味しいのは間違いないので、飲んでもらったお客さんには「美味しい」という声をたくさんいただいたのだが、飲もうかどうしようかという人に対しての購入の動機付けになるものが無い。すなわち、食いつきが悪いのだ。
せっかく良い豆なのに、販売するためのイメージが作り上げられず、豆そのものの魅力(すなわちフレーバー)に頼らざるを得ない販売方法となってしまった。
「この豆はチョコやナッツのフレーバーがラテにマッチします。とても美味しいですよ」
てなものだ。
非常に残念である。これでは飲んでもらう人にも、その美味しさのバックボーンやそこから広がるイメージで付加されるべき、エクストラの価値観やワクワクするような気持ちなどが足されない。コーヒーの美味しさだけである。
何かを食べたり飲んだりするというのは、その雰囲気も楽しむということだ。
スターバックスに行って、「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラエキストラホイップチョコレートクリームフラペチーノ」と注文する人は、その注文自体が楽しいエクスペリエンスなのだ。
そして店員が差し出すそのフラペチーノをソファ席で満足そうにすする。スターバックスならではの体験だ。そのフラペチーノの味は最高だろうか?いや、もっと美味しいフラペチーノも世の中にはあるだろう。しかし長ったらしい名前の注文をしてソファでくつろげるのはスターバックスだけだ。
同じように、サンシャインステイトエスプレッソでも、購入のエクスペリエンスを大事にしたい。そのコーヒーから透けて見える産地の情報、その国で何があったのか、コーヒー豆はどこで誰が作っているのか、そのドラマを付加してコーヒーを味わってもらうことで、より美味しさを感じてもらいたいのだ。
コスタリカの場合は完敗であった。メキシコの場合は圧勝だ。しかしメキシコの場合にはすでに作られたストーリーを紹介しただけに過ぎない。コスタリカには定型的な、既に作られたストーリーが無く、僕がストーリーを作り上げられなかったわけだ。僕が苦労して毎週メニューを作り変えるのも、毎週使用する豆が変わるからだ。そして豆が変われば、当たり前だがストーリーが違う。先週は内戦で無政府状態でもコーヒー豆を作る小農家の集まる村というけなげな産地を紹介したかも知れないが、今週は国を上げて品種改良に取り組み素晴らしい豆を徹底した管理で輸出する産地の豆を使うのだ。それらに同じストーリーをくっつけて売るわけにはいかない。
当たり前のことだが、コーヒーは嗜好品である。嗜好品なら、嗜好品らしく販売たい。僕の抽出するコーヒーを飲むんなら、ストーリーを感じて飲んでもらいたい。


Published in エスプレッソ技術

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